関東支部学術集会ミニレクチャーの抄録

「補瀉法の有効性・有用性の現代的解釈と証明」
東京衛生学園臨床教育専攻科講師 小川 卓良 
杏林堂院長代行 北川 美千代
<はじめに>
約四千六百年以上前の夏王朝の墳墓から青銅の鍼が発見されたことから明らかなように、鍼治療には骨鍼や石鍼の時代から考えて、少なくとも五千年或いはそれ以上の長い歴史があることがわかる。一方、黄帝内経は前漢から後漢に完成されたとされ、それ以前の医学関連古典でさえもせいぜい春秋時代、たかだか二千数百年しか遡れない。また、古典は儒教・道教等の影響を大きく受けており、孔子や老子の生存時代も同様である。従って、陰陽・五行・臓腑・経絡論などの古典理論が出来てから鍼灸が生まれたわけでなく、それまで二千数百年以上の経験から得られた鍼灸の知見に、当時の科学である陰陽論などを当てはめ、理論武装して体系化したと考えるのが妥当であろう。
<伝統派が重視する補瀉法>
以前、伝統鍼灸を実践し、かつ学術活動をしている臨床家30数人にアンケート調査した結果、彼らが重視する補瀉法は1に開閤、2に呼吸、3に迎髄の補瀉であった。その他では徐疾、選穴、病理の補瀉があった。開閤・呼吸・迎髄の補瀉を挙げたのは古典を重視してのことであろうが、数ある古典の補瀉法の中からそれを選んだ理由は臨床経験からであった。これらの補瀉法は何れも安全性・快適性に関連があった。よって、古典理論が形成される以前の臨床経験から安全・快適な刺法を補法とし、それ以外を瀉法としたとも考えられる。
<呼気時・吸気時における刺入の差違>
呼気時の刺入が補法とされており、その根拠となる説明は様々なされてきた。だが今までの論拠とは反対に、吸気は大気を身体に取り入れる(補気)のであるから吸気時(補気時)に刺入するのが補法であるという説明も成り立つ。古典には矛盾した記載も数多くあり、その根拠は実に曖昧である。 
太い鍼で呼吸の補瀉法を学生に体験させると、患者役は補法が快適で、瀉法が不快であることを実感し、施術者役は補法が刺入しやすく、瀉法が刺入し難いことを実感する。北川は明治国際医療大学において刺入手技に関する研究をしたいと考え、この呼吸の補瀉に着目した。呼吸時の鍼の刺入抵抗の変化を解析し、その結果、体幹部において呼吸の変化と鍼刺入抵抗の変化には極めて高い相関が認められ、呼気時、特に呼気の終了時は、吸気時よりも鍼の刺入がしやすいことが明らかになった。
<おわりに>
補瀉法は古典理論に基づいたものであるよりも、臨床経験から得られたものであると考えられる。それらは安全性・快適性に繋がっており、快適性は有効性にも通じていると推測される。今回の研究は呼吸の補瀉法のみであり、またこの手技によって正気を補し邪気を瀉すことの確認はできないが、補瀉法と刺入時の易難が相関することは確認できた。

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