【診療について】
1. 症状の診立て
まず治療を始める前に詳しい問診を行い、鍼灸治療の適応疾患であるかを鑑別します。
当院では東洋医学の世界観や死生観、病気や健康に対する考え方は大切にしておりますが、病態を見極める際には現代医学的な観点から行うことをモットーとしております。
2. 基本治療
基本は鍼治療です。症状によって、灸が効果的であると判断した時には灸の併用をお勧めします。また、必要に応じてテーピングを行ったり、その他の特殊鍼法を加えたりすることもあります。
いずれの場合でも、今の症状をできるだけわかりやすくご説明し、患者さんにとってより効果的な治療法や治療頻度をお示しできるよう心掛けております。
なお、当院は鍼灸専門の治療院ですので、マッサージや整体など鍼灸以外の施術は致しませんので、ご了承ください。
3. 鍼灸治療の基本構成
当院の鍼灸治療の基本構成は、3本立てです。それぞれの治療方法や経穴(ツボ)の選定は、東洋医学的検査と現代医学的検査の両方を行った上で判断します。
- ① 全身調整の治療(=本治)
自律神経系を整えたり、自然治癒力を鼓舞したりする治療を行います。 - ② 主訴に応じた治療(=標治)
一番お困りになっている症状や病気に対する治療を行います。症状が現れている部位や、症状の原因になっている部位の治療を行います。 - ③ 愁訴に応じた治療
主訴以外の症状(=愁訴)がある場合、それらに対する治療も行います。
4. 養生法
運動や食事、習慣など、早く治すためや再発予防のためにやっていただきたいこと、やらないでいただきたいことなど、生活上のアドバイスをさせていただきます。
【本治について】
当院は、経絡治療を行っております。
東洋医学では、全身を廻る“経絡”と呼ばれるルートがあり、そこに生命活動に必要な気血栄衛(エネルギー)が滞りなく流れていることが良い状態と考えています。気血栄衛を生み出す臓腑に不調が生じれば経絡の流れに異常が現れ、また経絡の流れに異常が起これば気血栄衛が臓腑に行き渡らなくなり不調が生じることになります。
このような臓腑の働きや経絡の流れは身体所見として様々なところに現れるのですが、経絡治療の考えでは特に脈(脉)に現れる所見を重視しています。脈(脉)診によって患者の体調を察知し、脈(脉)診によって導きだされた経穴に鍼や灸を施すことで正常な脈(脉)に戻し、健康な状態に戻そうとする治療法です。
【使用する鍼】
当院では、ステンレス製のディスポーザブル鍼を使用しています。サイズは主に以下の鍼を使用し、これらを目的と狙う部位によって使い分けています。おそらく他の鍼灸院より、かなり細い鍼を使用していると思います。
- 1寸 02番 (30mm/直径0.12mm)
- 1寸3分 01番 (40mm/直径0.14mm)
- 1寸6分 1番 (50mm/直径0.18mm)
- 2寸 1番 (60mm/直径0.18mm)
- 3寸 3番 (90mm/直径0.2mm)
なお、使用後の鍼や綿花は、医療廃棄物として指定業者に引き取りを依頼し、適正に処分しております。
【灸について】
1. 当院の施灸法
当院では、紙縒り(こより)を作るようにモグサを指で縒って細長い円錐状にし、その先端部分をつまみとって皮膚に乗せ、モグサに線香で火をつけて燃やしきる、昔ながらの方法で灸を行っています。
そのような灸は“有痕灸”と呼ばれ、当院では主に以下の施灸法を行っています。
- 透熱灸 : 良質のモグサを糸状~米粒の半分ほどの大きさの円錐形にし、直接皮膚上で燃焼させます
- 焦灼灸 : ウオノメ部は熱さを感じないので、透熱灸より大きい小豆~大豆ほどの大きさの円錐形にし、直接皮膚上で燃焼させ、灸の熱で焼き切ります
2. 透熱灸(有痕灸)の免疫効果
灸術は大別すると、灸の痕が残るか否かで“有痕灸”と“無痕灸”の2種類に分けられ、透熱灸は有痕灸の一種です。
昔は熱かったり火傷の痕が残ったりすることを厭わない患者さんが多かったですが、近頃は嫌がる方が増えました。そのため、「火傷にならない」「熱くない」と謳われている市販の灸や、台座や筒を使って皮膚に直接モグサが接触しないようになっている灸、温めることが目的の灸など、無痕灸を行う鍼灸院が増えていますが、当院では敢えて有痕灸である透熱灸を行っています。
なぜなら、火傷を作る透熱灸には、特別な効果があるからです。
関西鍼灸短期大学(現関西医療大学)の木村元教授らは実験研究によって、灸をすえた皮下に血管が新生され、そこを基地として免疫細胞が集まり、さらには免疫細胞が新生してくることを突き止めました。透熱灸をすえた局所では免疫反応が盛んになり、免疫細胞の数も増え、増えた免疫細胞は新生された血管を通ってそこから全身を廻りますから、全身性に免疫力を亢進させる効果も見込まれます。
しかも、モグサの成分を化学的に抜いて繊維だけにしたもので灸をした場合、反対に、ヨモギの成分を抽出して皮膚に塗りつけた場合には、いずれも血管の新生は起きず、免疫細胞の数も増えないことがわかりました。
つまり、免疫力を高める灸には熱刺激とヨモギの成分が必要ということですから、その両方を伴う最も効果的な施灸法である“透熱灸”を当院では行っています。
3. 火傷痕が残らない透熱灸
効果はあっても火傷の痕が残るのは嫌とお考えの方は多いと思います。透熱灸は灸の痕が残る有痕灸に分類されていますが、熟練の鍼灸師が行えば灸の痕は残りません。
熟練の鍼灸師はモグサの縒り方が柔らかいので、燃やした時の燃焼温度が低くなります。また、形を糸状~米粒半分くらいのとても小さな円錐形にでき、皮膚に乗せるときもフワッと置くことができるので、モグサが皮膚に接するのは極僅かです。ですから、モグサが燃えきるときの熱さはチクッとするくらいのほんの一瞬ですし、灸の痕も灸をしている期間はホクロくらいに残りますが、表層火傷ですから一生残るようなものではありません。灸をしなくなれば、その痕は消えます。
4. 透熱灸の自律神経効果
穏やかな熱刺激の灸ではなく、透熱灸のようにモグサが燃えきるときに一瞬チクッと感じるだけの熱刺激は、自律神経の副交感神経を抑制する作用があります。アレルギー体質の方には副交感神経の過剰興奮がよく見受けられ、そのような場合に透熱灸が有効です。