<会頭講演3:「治る」「治す」ということはどういうことか?>
<「科学的」であることと、「効く」ということは違う>
ある著名な物理学者は「東洋医学は代表的な似非(エセ)科学であるが、よく効くのでよく利用している」とTVで述べられていた。似非科学というのは科学的なようで全く科学的でないものをいうが、「効く」と言えるのならば「科学的」でないかという疑問も沸く。
<「代替医療のトリック」の影響>
8年ほど前に「代替医療のトリック」という本が日本語に翻訳され一時ベストセラーになった。著者は科学ものを書かせたら世界第一人者のサイモン・シンと代替医療を専門に研究してきたエクスター大学の現役教授であるエツァート・エルンスト教授でともに物理学博士でもある。この本に対しての反論は、全日本鍼灸学会誌に明治国際医療大学教授の川喜田健司教授と共同で作成し掲載され、英文化され著者に送られたが、なしのつぶてであった。この件についてはいずれ本HP上に掲載する予定である。
この本については、多くの新聞に書評が出た。そして面白かったのは「それ見たことか、鍼灸やカイロ、マッサージ、漢方などは科学的でなく効かないのだ」というように「トリック」に書かれた論調を肯定する批評をする人々はほとんどが物理学者(科学者)で、社会科学や人文科学を専攻するような人はむしろ「トリック」に否定的であったことである。
千葉大学教授の広井良典氏は2010年2月21日付朝日新聞の書評で、「著者らの主張には一定以上の妥当性がある」が「現代医療論として読む場合、本書の議論にはやや表層的な物足りなさが残る」と述べ、「EBMで、有効性が厳密に確証されてない療法が多いという点では通常医療にも広く当てはまることである」と述べ、「心身相関や慢性疾患の発生メカニズムの複雑性を考えた場合、著者らがいうような検証方法は限界を有するのではないか」とし、「この本を契機に議論すべきは『病気』とは、『科学』とは、『治療』とは何か、現代医療を巡る根本的な問いの掘り下げだろう」と述べている。
<「病気」とは「治す」「治る」とは何か、そして「科学」とは何か?>
そもそも、「病気」とはどういう状態か、逆に「健康」は?という超哲学的な問題がある。快食・快眠・快便で非常に元気であっても、体の中では「癌」が育ってきているかもしれない。逆に、体がだるく元気がなくいかにも病的であっても内臓を含めてどこにも異常がない場合もある。こんな場合の「病気」「健康」の定義は非常に難しいことはお分かりになるかと思う。
また、頭痛が起きて頭痛薬を飲んで頭痛が治まったら「治った」というのであろうか?消炎鎮痛剤はあくまでも「痛み止め」であって、「痛む原因」の治療をしているわけではなく、この論を進めるうちに明らかにしていくが、「治す」どころか「治さない、悪くする」治療法なのである。
風邪に鍼治療をすると熱がむしろ上がりいかにも「悪化」したように見えるが、実は鍼治療により免疫力が高まり熱が上がったので「治る」のは時間の問題という状況で、治療者にとっては「治した」と言ってよい段階なのである。
<科学的認識とは>
会頭講演に戻る前に科学的認識について少し考えてみたい。SL2を見ていただき、入り口(例えば鍼治療をする)ことと出口(例えば治療効果)を客観的に示すことができるが、なぜそうなるのかというメカニズム(治療機序・効果機序)がわからない場合に「科学」あるいは「科学的」ということができるかどうかということである。皆様はどうお考えになるのでありましょうか? つづく
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