病気と鍼灸

鍼治療と視力回復(2)

1.眼軸長が改善しなくても視力は回復する

 よく見えるか否かというのは単に眼だけ、または眼の一部の問題だけではなく、眼で受け取った情報を脳に伝える視神経や伝えられた情報を受け取る脳の視覚野、更にはそれらを取り囲む周辺組織の状態など様々なものが関与しています。ですから、それらの機能が改善することで、よく見えるようになったと感じることは当然あります。しかし、長くなってしまった眼軸長の変化は不可逆的なもので改善しませんから、視力が回復するといっても当然限界があります。

2.視力はまぶたを閉じても回復

 物を見るとき、網膜に映った画像は視神経を介して脳の後方にある視覚野に届けられます。例えば、視覚野に投射された光信号が“赤い丸”だった時、それが何であるか(リンゴ、赤信号、ボール…?)、そしてそれはどのような意味があるのか(食べ物、危険物、固い・柔らかい、熱い・冷たい…?)などを過去の経験と照らし合わせながら分析し、認識する必要があります。そのためには、単に視覚野だけでなく脳の様々な領域に情報を届け、それぞれに連絡を取り合います。
 さて、眼からの情報を伝えるとき、網膜から脳まで神経はずっとつながっている(1本だけ)と思いますか?
 そんなわけはありません。指先に触れた物の情報も、足で感じた情報も、眼で捉えた情報も、どれも何本かの神経がリレーして脳へ伝えます。バトンタッチする場である中継部分はシナプスと呼ばれ、神経同士は直接触れ合っておらず、そこには極僅かな隙間があって、その隙間に前の神経から神経伝達物質が放出され、次の神経がそれを受け取り情報が伝達されていきます。まさにリレーのバトンのような役割をしている神経伝達物質ですが、それは前の神経内で作られ蓄えられている化学物質で、その量には限りがあります。ただ、放出された神経伝達物質は、すべてが次の神経に受け取られるわけではなく、隙間に取り残されるものもあります。それらは酵素によって速やかに分解され不活性化されるか、前の神経に回収されて次の放出のために蓄えられます。このようにリサイクルしながら使われているので、通常、情報伝達物質が無くなることはないのですが、同じ状態が長く続くと神経伝達物質が枯渇し、次の神経へのリレーが遅くなったり、できなくなったりします。
 良い例は車の運転です。運転中は目からの情報を常に脳に伝えています。それが30分くらい続くと徐々に神経の伝達が遅くなりはじめ、2時間も経つとかなり遅く、4倍ほどにもなると言われています。そのため、長距離バスの運転手などは2時間運転したら休憩するか他の人と運転を代わるように義務付けられているのです。この休憩は同じ姿勢を続けて凝り固まった体をほぐして休ませるだけでなく、まぶたを閉じて眼を、そして脳を休ませ、神経の機能を回復させる意味があります。

3.移動中は目を瞑りましょう

 現代人はコンピューターや細かい文字を見ることが多いので眼精疲労を起こしやすい上に、タブレットやスマートフォンの登場によって、より一層眼が疲れる状況が増えています。仕事中や歩行中に眼を閉じているわけにはいきませんが、電車やバスでの移動中はまぶたを閉じて眼を休ませることができます。なのに、電車の中でスマホを見ている人のなんと多いことでしょう。
 近視は遺伝と生活習慣が発生要因ですが、昔に比べて近視人口が急拡大(小中学生の8割から9割程が近視)しているのはこれが原因です。スマートフォン、携帯型ゲーム機、タブレットの成長期における長時間使用は近視を助長していると言われており、近年社会問題となっています。
 それだけでなく、以前は30代・40代の男性が眼の酷使によって罹患することが多かった中心性網膜症は、今では男女問わず20代でも多発しており、そのまま酷使を続ければ失明に至る可能性が高くなるので、半年から1年仕事を休んで眼を休ませなければなりません。それでも完治はしませんので、その後も眼を酷使するような仕事は避けねばなりません。そうならないためにも、せめて移動中だけでも眼を休ませて、昼休みに5分でも10分でもよいから眼を閉じて休ませることが望ましいのです。

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。