鍼治療と視力回復

鍼治療と視力回復(1)

1.鍼治療で視力が回復するか?

 「視力回復」を謳う施設が幾つかあり、「たちまち治る」とか「みるみる治る」というような宣伝文句が並び、施設名も「視力回復・・」という名称を使っているところが多いようです。ところで、鍼灸院においても視力回復を謳っているところは少なくありません。確かに、鍼治療により視力が一時的に回復するのは間違いありません。しかし、一度あるいは数回だけで治療をやめても視力は回復したまま、すなわち「治る」のでしょうか?

2.視力回復してキャビンアテンダント(CA)試験に多数合格

 当院では以前、CA養成施設と提携して視力回復の治療を行っていました。当時、CAの入社は裸眼視力0.1以上、矯正視力1.0以上が基準になっていましたので、その基準に少々足りない学生さんの治療を行い、ほぼ全員合格されましたせることができました。この“ほぼ”というのは、治療を行った学生さんの中には不合格者もいたからですが、その方は視力ではなく英語力など他の要因で不合格になった可能性が高いとのことだったので、視力に限っては皆さん合格だったと考えています。
 学生さん方の視力は0.03~0.07程度が多かったのですが、鍼治療により0.3程度まで視力が回復し、合格できたのだそうです。ですから、治療後数日は回復した視力が維持されていたことになります。それどころか、3年後に一度入った会社を辞めて、他の航空会社を受験して合格した方もいらっしゃいます。

3.近視とは

 私たちは物を見るとき、カメラのレンズのような働きをする水晶体の厚さを調節することで、光の屈折率を変えて網膜上に光が集まる(焦点が合う)ようにしています。この調節に関わっているのが「毛様体筋」という筋肉で、遠くを見るときは毛様体筋を緩めて水晶体を薄くし、近くを見るときは毛様体筋を緊張(収縮)させて水晶体を膨らませ焦点を合わせています。
 近視は網膜より手前で焦点が合ってしまう状態を言いますが、それにはレンズの屈折率が高いことによる「屈折性近視」と眼球の奥行きが長いことによる「軸性近視」とがあります。
 肩の筋肉の緊張が続きコリが溜まると、筋肉が固くなって伸ばしにくくなるように、スマホなど近くを見るのに長時間にわたって毛様体筋を緊張(収縮)させ続け水晶体を膨らませていると、毛様体筋が凝ったようになります。すると、遠くを見ようとしても毛様体筋が緊張したままで緩まず(伸びず)、焦点が合わなくなります。このようにして起きる近視が「屈折性近視」と呼ばれ、「調節緊張」とか俗に「仮性近視」などとも言い、このような状態であれば鍼治療の効果が期待できます。ですが、長期にわたると常態化してしまい真性の近視になるとも考えられています。
 一方、体の成長と共に眼球も形を変えながら成長していくは当然のことなのですが、成長期に近くを見ている時間が長いと、それに都合が良いように、つまり毛様体筋を緊張させて水晶体を膨らませなくても焦点が合うように、眼球の前後の長さ(眼軸長)が長くなっていくと考えられています。このようにして起きる近視を「軸性近視」と言い、一度伸びた眼軸長を短くする事は出来ませんので、根本的に治すことは困難です。ただ、水晶体が膨らんだままの状態が続いていると軸性近視も進んでいく可能性があり、毛様体筋の持続的緊張(調節緊張)を取り除いて水晶体の膨らんだ状態を解消させることが、近視の進行予防になると考えられていますので、この点においては鍼治療ができることもあると思います。

4.鍼治療で軸性近視が治るか?

 鍼治療による視力回復の臨床研究も数多くあり、いずれも視力回復ができていることを示唆していますが、すべての論文で球面屈折度は回復しないことが結論付けられています。「球面屈折度は回復しない」ということは、眼軸長は改善しないということです。とすると、視力は回復しなさそうに思えますが、いずれの研究においても視力回復ができていることを示唆していると言っています。
 視力回復において一般的に皆さんが思う「治る」とは、眼軸長や水晶体の厚みが変化したことではなく、よく見えるようになること、そしてその状態が維持されることなのではないでしょうか。構造を変えることはできなくても、機能が向上すれば見え方が変わります。鍼治療による視力回復のメカニズムは、そこにあるのではないでしょうか。

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