花材:カンガルーポー・スカシユリ・ポリシャス・トルコキキョウ・マリーゴールド・ゴッド
今週は「カンカルーポー」という名の枝物をいただきました。
学名はAnigozanthos、ハエモドルム科アニゴザントス属に属する植物で、Anigozanthosはギリシャ語の「anoigo(開く)+ anthos(花)」が由来だそうです。カンカルーポーは英名で、カンガルーはあのオーストラリアに住む動物のカンガルーのことで、ポーは「paw(爪のある足)」という意味だそうで、筒状の花が咲いた時の様子が、カンガルーの前足に似ていることから付けられたのだそうです。
カンガルーの前足と言われましても、オーストラリア人ならいざ知らず、日本人の私にはカンガルーの前足がどんなだったか覚えがなく・・・、調べたところ、確かに似てなくもない。枝から花まで表面に細かい毛がびっしり生えているところは動物の足の雰囲気ですし、花の先端が6つに裂けてピャッと開いているところは、カンガルーの手のようですね。
さて、名前からも想像できる通り、この花はオーストラリアが原産です。南西部を中心に約8種類(11種との記載もある)が自生し、毎年花を咲かせる多年草だそうです。日本へは1971年頃に、初めてニュージーランド経由で入ってきたそうです。現在オーストラリアでは品種改良が進んで、今回いただいた黄色い花色の他にも赤、ピンク、グリーン、オレンジやツートンカラーのものまで、実に200種以上の園芸品種があり、様々な国に輸出されているそうです。
オーストラリアと言えば、何と言ってもカンガルーとコアラが有名ですが、それらをはじめとしてワラビー・ウォンバット・カモノハシなど、他の地では見られない固有種の宝庫ですよね。オーストラリアに生息する哺乳類・爬虫類・カエルの80%以上が固有種なのだとか。植物も同様で、ユーカリやアカシアに代表されるように、他の大陸とは全く違う個性的な形をした植物の宝庫で、カンガルーポーもオーストラリアに生息する個性的な植物の一つです。さらに、カンガルーポーが含まれるハエモドルム科の植物は、「ゴンドワナ植物群 Gondwana flora(ゴンドワナ・フローラ)」の一つと考えられています。ゴンドワナ植物群とは、かつて南半球に存在していたと考えられているゴンドワナ大陸に繁茂した温帯性の植物群のことだそうです。
ゴンドワナ大陸とはなんぞや? その前に・・・、
1912年にヴェーゲナーが提唱した「大陸移動説」は、みなさんご存知のことと思います。ヴェーゲナーは、北米南部から中米~南米にかけての大西洋側の海岸線とアフリカ大陸の西側の海岸線の形がよく似ていることに気付き、二つの大陸の相対する場所において、地層や化石の分布に連続性が見られたことから、昔は一つの大陸だったものが分裂して移動し、今のような形の大陸ができたのではないかと考え、大陸移動説を発表しました。この時、ヴェーゲナーは分裂する前の一つにまとまった大きな大陸(=超大陸)をパンゲア大陸と命名しています。
発表当時、ヴェーゲナーはその説の根拠と成る事象を様々示しましたが、大陸が移動するメカニズムやその原動力を説明することができなかったため、一般には受け入れられませんでした。ですが、1960年代にプレートテクトニクスという概念が生み出され、ヴェーゲナーの大陸移動説は再評価されました。今では大陸の移動を否定する人はいないばかりか、大山脈が形成されるメカニズムなど多くのことがプレートテクトニクス理論によって説明されるようになっています。
20世紀後半の研究の進歩によって、さらに大陸移動の様子が詳しくわかってきました。マントルの動きが穏やかになることで、大陸地殻が形成されるようになったのは25億年前(原生代)からとされ、その後マントルの対流によって新たな大陸が造られるとともに離合集散が繰り返され、それは今もって継続中です。
今から約2億5千万年前(古生代末期)に大陸はほぼ一つに集まり、ヴェーゲナーが唱えた超大陸、パンゲア大陸が形成されていたと現在では信じられています。さらにパンゲア大陸以前にも、いくつかの超大陸が存在したと考えられ(ここまで遡ると学者によってかなり意見の違いがあるようですが)、約10~7億年前(先カンブリア紀後期)にはロディニア大陸、約15~10億年前にはパノティア大陸、約18~15億年前にはコロンビア大陸、約19億年前にはヌーナ大陸と呼ばれる超大陸が存在したと推定されています。
さて、ゴンドワナ大陸の話に戻りますが、陸がパンゲア大陸にまとまる以前、ロディニア大陸が分裂し、ゴンドワナ大陸と呼ばれるかなり大きな大陸と、シベリア大陸・ローレンシア大陸・バルティカ大陸と呼ばれる小さな大陸に分かれていたと考えられています。それらの大陸が2億5千万年前頃に次々に衝突し超大陸であるパンゲア大陸が形成され、それは2億年前頃から再び南北に分裂をはじめ、北のローラシア大陸と南のゴンドワナ大陸に分裂したとされています。この後、ゴンドワナ大陸は現在のアフリカ大陸・南アメリカ大陸などを含む西ゴンドワナ大陸と、南極大陸・インド亜大陸・オーストラリア大陸を含む東ゴンドワナ大陸へとさらに分裂していきます。
古生代末期のペルム紀の植物であるソテツシダ類に属ずるグロッソプテリスは、ゴンドワナ大陸に生育していたことで知られ、その化石が南アメリカ・アフリカ・インド・南極・オーストラリアの各地で発見されます。また、この地域に分布域を持つ生物をゴンドワナ要素と呼んでいて、たとえば肺魚はアフリカ・オーストラリア・南アメリカにそれぞれ別属が分布していて、典型的なゴンドワナ要素とされています。この他、植物ではバオバブがアフリカ・マダガスカル・オーストラリアに分布しています。このように、かつてゴンドワナ大陸の一部だったと考えられる南半球の大陸に隔離分布※する植物をゴンドワナ植物群と呼ぶのだそうです。(※ある物の分布が大きく離れた地域に亘っていること)
今回ご紹介したカンガルーポーが含まれるハエモドルム科の植物は、オーストラリアと南アフリカ、それと南アメリカ北部の太平洋側にだけ分布しているので、ゴンドワナ植物群一つと考えられているのだそうです。
一つのお花から地球の歴史を顧みることができるとは・・・、ロマンですねぇ。
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