執筆

代替医療のトリックに答える6

東京衛生学園臨床教育専攻科講師
(社)全日本鍼灸学会 副会長  小川卓良
意見提供 明治国際医療大学  川喜田健司

20、膝OAで浅い鍼の方が深い鍼よりも有効であった研究

 深い真の鍼の方が浅い偽鍼よりも有効であったドイツの研究に対して、日本では浅い鍼の方が深い鍼よりも有意に有効であった研究がある。明治国際医療大学の宮本直氏らが膝OAに対して下肢の圧痛点に対して浅い鍼(3mm)群と深い鍼(1~2cm)群の2群に分けて視診し運動機能(4種類)と痛みを比較したものである。その結果共に痛みは有意に減少したが群間の差はなく、運動機能は全て浅刺群のみが有意に改善したというものである12)。

 ドイツの研究と逆の結果がでたが、ドイツでの刺鍼部位は地図上の経穴部位であるのに対して、宮本氏らの研究では経穴でなく圧痛点であるところが全く違う。私自身の治療家と患者としての経験から言わしていただけば、膝の関節部位は浅く靱帯に沿わせるように刺鍼し筋肉部位は当該筋肉まで深刺する方が効くという印象を持っている。多分、有効な刺鍼の深さは場所、症状、個人、取穴における反応(圧痛・硬結・陥凹・虚実な等)の有無・種類等により様々違うのではないか?それが本書で言うデリケートの意味ではないかと思われるが会員諸兄はいかが思われるだろうか。

 

21、膝OAに対する鍼治療にはSR(システィマティックレビュー)でもメタアナリシスでも有効性は確認されている。本書の共同執筆者エルンスト氏の同僚であるホワイト氏らは膝OAに対する鍼治療の有効性に対してSRとメタアナリシス(数量的な統合評価)を試みている13)。SRの対象は慢性膝痛及び膝OAの成人計1334名を対象としたRCTの13論文。その内8論文はWOMACの評価がありメタアナリシスの対象となった。図9はメタアナリシスの結果をグラフで表したものであるが、膝OAの痛みも機能の何れも真の鍼群が浅い経穴外しの偽鍼群を有意に上回ったという結果である。

trick-fig9

 この中に含まれる研究を簡単に二つ紹介する。一つは米国のバーマン氏の研究があるが、これは26週間に23回の治療を膝周辺と下腿の経穴に8~25mm刺鍼した真の鍼が偽鍼よりも有効であり、偽鍼も教育指導だけよりも有効であったとしている14)。

 もう一つはスペインのヴァス氏の研究でボルタレン服用者に薬に併用して内外膝眼と陽陵泉-陰陵泉の通電を中心に手足の要穴を置鍼する真の鍼群の方が通電をしない経穴外しの浅い鍼群(偽鍼)よりも痛み、機能、こわばり感、薬剤の服用料など全ての項目で真の鍼群が上回ったというものである15)。この二つの研究では内側関節裂隙や外側関節裂隙部位には刺鍼していないし圧痛等の反応を診ているものではない。

 

22、局所麻酔治療よりも鍼治療の方が有効であった研究

 対象は頚・肩痛を有する患者で鍼治療と局所麻酔剤の筋肉内注射とを比較した研究である。刺鍼部位は両群共に局所の自覚的最大痛み部位3~5カ所で週1回の治療を4週間行ったものである16)。鍼治療は1~2cm刺入して得気を得てから1Hzで20秒雀啄して抜鍼する方法を採った。判定はVAS、ADL評価、頚部神経根症治療成績判定基準で行い、直後効果、累積効果(最終治療後の効果)、持続効果(治療終了後4週間後での評価)の全てで何れの評価項目においても鍼治療は注射よりも有意に有効性が高かったという結果であった。

 

23、個別化治療は無効か?

 本書においても、チャーキン氏の研究においても個別化治療は標準化治療と比して差がない、と述べているがあくまでも中医鍼灸における個別化治療が対象であると前述した。

 本邦の研究でトリガーポイントと圧痛点および偽鍼を高齢者の慢性腰痛患者で比較した研究がある17)。トリガーポイントとは、腰部と股関節のROMで痛みが誘発される筋を同定し、その筋中に触診で索状硬結が触れ圧痛で症状が再現する部位で特に腰臀部に限らない。圧痛点は症状がある腰臀部に存在する圧痛点で触診で硬結等を確認しない部位のことである。偽鍼治療は、トリガーポイントに先端をカットした鍼を用いた。VASと腰部QOL尺度であるRDQを治療5回後、治療終了1ヵ月後、3ケ月後で評価したところいずれもトリガーポント治療が圧痛点治療を上回り、圧痛点治療は偽鍼治療を上回ったということである。

 トリガーポイント治療は偽鍼治療を当然上回っているので刺入刺激の方が圧刺激よりも有効であったといえるし、圧痛点治療よりも良いことから触診で硬結を確認したほうが良いということも言えそうであるが、治療部位が違うので圧痛点部位でその差を見たほうが良いようにも思える。

 また、明治国際医療大学の渡邉勝之氏らは強力反応点なる特殊な特異的反応点があり、その部位への刺鍼は、特異的反応点から1cm離れた任意の非特異的反応点や中医弁証による遠隔部位への経穴刺鍼、或いは局所の緊張・硬結・圧痛などの反応点への刺鍼に比較して有意に有効であったとの報告をしている18)。更に渡邉氏らは、強力反応点への刺鍼は鍼の太さ、刺鍼深度、刺激時間などの刺激の量と質に無関係に有効であるとの認識を示した。

 このように、まだごく一部であるが徐々に個別化治療の有効性或いは重要性についてのエビデンスが集まりつつある。

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。