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症例から学ぶ悪性疾患の鑑別法-その27

・・・・キーワード11「癌の可能性が高い。貴方ならどうする?-11」・・・・
 前回はコレステロールと免疫について、少し考えてみた。まず最初に前回の宿題を検討する。
<コレステロールを食べ過ぎると動脈硬化になる?!>
<宿題1>
 アニチコワ(Anitschkow)らのウサギにコレステロールを与え、大動脈にコレステロールが沈着してアテローム変性を起こし動脈硬化が起こったことから、「コレステロールが動脈硬化の原因である」と発表した実験の大きな問題点についてである。
 大きな問題点は実験にウサギを使ったことである。ウサギは草食動物であり、植物にはコレステロールは存在しないため、ウサギにコレステロールを含むエサを与えると、それをそのまま反映して血中コレステロール値が急上昇してしまうのである。つまり、草食動物にコレステロールという動物性脂肪を与えると、コレステロール値が上昇するのはあたりまえである。
 そして、人間のように血中コレステロールをコントロールする仕組みは、当然コレステロールを食べること自体が種としてなかったのであるから、できているわけがないので、血中コレステロールは増加の一途になってアテローム変性を起こし・・・・・という事態になるのは当然というわけである。
 一方、人間は肉などの動物性食品も食べるので、食物から摂るコレステロール量に応じて体内で合成する量を調整し、コレステロール値を一定に保つ仕組みができあがっている。このため、ほとんどの人は食物からコレステロールを摂っても、それによりすぐにコレステロール値が上がることはない。第一、人間のコレステロールの約80%は体内で合成されていて、外からの摂取によるコレステロールは約20%に過ぎないのである。これは次の宿題のヒントでもある。
 よって、あくまでも人間ないしそれに近い雑食の動物を使って、コレステロールと動脈硬化の関連を調べるべきであったのである。当時はそのような認識・知識がなかったのでやむをえなかったので批判すべきではもちろん無いが、このような現実を知ってみると何か壮大なる詐欺という気がしてならない。
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<卵は食べてはいけないのか>
<宿題2>
 毎日卵を三つずつ(450mg/dlのコレステロール)食べると3週間位すると実際にコレステロール値は上昇するのであろうか?
 というのが、次の宿題である。
 今から30数年前の1970年代にアメリカのヘグステッドという学者たちが、「食品中のコレステロールが100mg増加すると、血清総コレステロールが6mg/dl上がる」という「ヘグステッドの式」を提唱し、長い間この式が採用されていた。
 「ヘグステッドの式」の計算でいくと、鶏卵1個には約250mgのコレステロールが含まれているので、1個食べると15mg、3個食べると45mgも血清総コレステロールが上がってしまうことになる。
以前より、鶏卵については「食べるべからず」から「1個ぐらいは良い」とか「2個までならば良い」というように様々な意見があり、鍼灸院来院患者さんも医師から色々言われてきている。しかし、何れも多く食べるのは駄目という認識では一致していたように思う。もちろん、あくまでも「数」であり、鶏卵の「質」ではない。鶏卵は最も物価上昇の影響を受けず、単価が安いまま推移している代表的な食品である。実は父の実家は鶏を大量に育てて、卵を産ませ、その卵を機械によって早く孵化させた雛を売っている事業を行っていた。
 父の長兄の息子、すなわち私の従兄弟が社長であったのだが、父の実家にいくと抗生物質を混入した餌を与え、鶏舎で運動させずに、夜も電気を付けてあまり寝かさず、無理矢理卵を産ませ、その卵を機械に入れて早く孵化させた雛を売っていたわけで、幾ら値段勝負の経費削減とはいっても、そのように育てられた鶏や雛、または産まされた卵が良い卵の訳がない。その事業も卵の値段が上がらず、経費削減も限界に来て、数年前にその事業から撤退してしまった。
 さて、鶏卵の質はともかく量の問題である。食事性のコレステロール摂取量と血中コレステロール濃度への影響を検討した実験研究は50年以上にも渡って167件もあり、それらを全てレビューした結果、「食事によるコレステロール摂取は血中コレステロール濃度に影響を与えない」ということがわかったのである1)。尤も、その多くの研究は鶏卵一日2個以内であり、一日6個とか10個という研究もあったがほとんどは1~2ヶ月で打ちきられており、そのほとんどは影響がなかったというものであったが、さすがに「倫理的」に長期に渡って影響を調べることはできなかったようである。しかし、毎日5~10個何十年も食べている人達が血中コレステロール値は正常域だったり、毎日4個は食べている養鶏場の家族従業員はむしろ低コレステロール血症であったなどという少数例報告は数限りなくある。よって、少なくとも一日2個以内ならば全く問題はないということはいえると思われる。
 さて、宿題の方は一日2個ではなく3個である。
 コレステロール負荷テストというのがある。これは、食事によるコレステロール摂取が血中コレステロール濃度に影響を及ぼす人と、全く影響を及ぼさない人がある、すなわち個人差があることがわかってきたのである。よって、その食事によるコレステロール摂取と血中濃度の相関を調べて、影響を及ぼす感受性タイプか全く影響を及ぼさない非感受性タイプかをテストするために生まれたテスト法である。これは、鶏卵3個分にあたるコレステロール(凍結乾燥させた卵黄)750mgを毎日、食事に混ぜて最低2週間、継続して摂取するテスト方法である。そして、テスト前後の ①「血清総コレステロール値」、②「LDL(悪玉)コレステロール値」、③「HDL(善玉)コレステロール値」を比較するのである。 そして、LDL(悪玉)コレステロール値が、テスト前の値より10%以上高くなった人は、食品中のコレステロールが血中コレステロールに反応しやすい「感受性の強いタイプ」であると判断し、かつこのタイプで、血中LDLコレステロール値が異常に高い場合は、鶏卵に限らず食事によるコレステロールを制限しなければならないということである。ただ、その先の研究は未だ無いので本当にコレステロールを制限しなければならないかは未だわかっていない。すなわち、このようなタイプで食事制限して血中コレステロール濃度をコントロールした場合と、そうでない場合の死亡率や有病率に差があるかどうか、という研究である。今は「当然血中コレステロール濃度が高いのはいけない」に決まっている、ということでその先の実験は必要ないし、コレステロールをコントロールしない対照群をおくこと自体「倫理的」に問題ということなのである。
<約2/3の人達は、卵をいくら食べても悪玉コレステロールは増えない!?>
 宿題の回答であるが、東海大学医学部教授の本間康彦氏らの研究で日本人110名にコレステロール750mg/日(鶏卵3個分)を1ヵ月間与え、血清脂質濃度を調べたところ、摂取前後で有意差はみられなかった2)、ということであり3個では問題はないようである。また、本間教授らの研究では、LDL(悪玉)コレステロールが上昇した人は全体の35%にすぎず、残りの65%の人には問題がなかったのである。それどころか、むしろ鶏卵を食べてHDL(善玉)コレステロールが増えた人が44%もいたという点が注目に値する。実際に長寿者には鶏卵や牛乳を沢山摂取している人が多く、コレステロール値もそれほど高くないという報告が数多い。
 本間教授らの研究は、1ヶ月間という短期の研究であったが、日本人を対象とした長期の研究もある。これは、10年以上の期間にわたり、卵を毎日3個以上摂取し続けた人々の臨床所見では、心電図上、特に狭心症もなく、血中コレステロール値も高くなかった3)、というものである。ただこの研究では卵を3個以上ではあるが、煎茶12gも同時に混合したものを使用している点が違うのであるが、日本人であるならばお茶も飲むので実際には問題ないと思われる。
 よって、卵は一日2個ではなく3個食べても問題ないというのが結論であろう。
 卵、特に卵白は脂肪が0でほとんどがタンパク質であるし、その卵白タンパク質の一つであるオボムチンは小腸でのコレステロールの吸収を阻害し体外へ排泄する働きがあるとされるし、また、卵白のアミノ酸の一つであるシスチンは血中の悪玉コレステロールを下げる働きがあるといわれている。また、卵黄は脂肪が多いのが問題だが、その脂肪の一つのレシチンは、動脈硬化予防及び血圧低下に効果があるとされている。
 また、コレステロールと同じように吸収される脂肪酸にミリスチン酸というのがある。ミリスチン酸は、必要以上にコレステロールを合成させ、大量に血液中に流出させ、細胞膜の合成などに使われる以上に余ったコレステロールが肝臓に戻るのをミリスチン酸が閉め出し、これが悪玉コレステロールとなる、というものである。卵は牛肉や牛乳に比較して、コレステロール量は多いのであるが、このミリスチン酸が非常に少ない食物であるので、コレステロールが多くても問題にならないでむしろ牛肉の方が問題という考え方もある。
 その上、卵を食べるほど血中コレステロールが下がるという報告もあるくらいなので、決して悪玉扱いにするべきではないし、その他ビタミンB1、ビタミンB2や鉄、リン、カルシウムなどの栄養素がバランスよく含まれているので、むしろ積極的に食べるべき食物と考えるが質の問題も当然考慮すべきである。ただ、アレルギーの問題などもあるので諸手をあげて賛成というわけには行かないが。
<卵を食べなくなったために、結核になった症例?>
<症例54>女性 主婦 66歳 痩せ形 喫煙無し 時々ビールを少し飲む
 11年前にくも膜下出血の手術を行い、その後下肢に痺れが生じ、元々の冷え症及び軟便体質があるのでそれらの治療及び健康管理的に手術後より来院している。2・3年前より咳が止まらなくなったが発症当初のx線検査や血液検査では異常が無いといわれている。コレステロール値は基準域に入っているが低め。
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 この患者は月1~2回程度の鍼灸治療を継続しているが、しょっちゅう発熱するし、寝汗もかくということで結核ないしCOPDの疑いを持った。そこで、精密検査をするようにお話しをしたところ、病院では特別なこと(診断名など)をいわれなかったそうであるが、胃薬を含めて5種類の薬を処方され、半年間の服用を指示されたということであった。薬を持ってきていただいたところ、案の定抗結核薬であった。結核の疑いについては精密検査をご指示した時にその可能性の一端としてお話ししてあるが、医師の方でご本人には病名を伏せたようである。元々虚証で体力がない患者なので、強力な抗結核薬の半年に及ぶ服用については、その副作用の方が心配であった。そこで結核とはいわずCOPDということでお話しをして、鍼灸治療を毎週1回受療しその上で卵を毎日2個食べて一日30分以上の大股歩行をすることと、薬の服用のどちらかを、または両方を選択肢としてお話ししたところ、前者を選択された。もちろん、病院での経過観察を条件とすることはいうまでもない。その後転居され、知己の鍼灸院をご紹介し、治療はそちらに委ねたのであるが、元気に通院しているとのことであるが薬や結核の病状の詳細についてはわからない。
 ただ、今となっては「卵2個では少なすぎたかな」という反省があるが、当初この患者さんは「卵は悪者」の意識があり、ご主人が高血圧ということもあり、数年前より一切卵は食べてなかったのである。そのために毎日2個食べるということは当初難しかったのであるが何とか説得したのが現状で、コンプライアンスの程は自信がないが、とにかく元気で通院しているのであるならば問題はないであろう。
 この症例については、医師から見ればとんでもない暴挙に見えるかもしれない。結核であるのに、薬ではなく栄養と軽い運動だけで治そうということであるからである。
 結核は第二次世界大戦の戦中・戦後では当たり前の病気であり、国民の多くが罹患しかつ死亡した重篤な疾患である。戦後にストレプトマイシンが日本に入ってきて、結核の治療が本格化し結核による死亡や罹患率が大きく下がった、という認識が一般的であると思うが、実際にはストマイが入って来る遥か以前より結核による病死・罹患率は減少していたという事実は有名な話である。ストマイは非常に強力な抗生物質であり、その有効性が明確な故に、唯一薬効検定を一切してないで薬として認可されたともいわれているが、その薬の使用よりも栄養の回復の方が早かったためであるが、10年以上離れているわけでもないので前記の一般的な認識が当然のように受け入れられたのだと思われる。すなわち、結核が蔓延したのは戦争による栄養不足が第一の原因である、ということである。
 何れにしても、栄養が満ち足りた昭和30年代以降では結核による死亡及び結核の罹患は非常に少なくなったのも事実である。ただ、結核に罹患はしていても顕在化せず、潜在化しておりいわゆる共存共栄している状態の人は非常に多いのではないかともいわれているが、少なくとも症状が発現しなくて天寿を全うできれば問題ないわけである。
 この症例54は多分若い時に結核に罹患していて、そのまま顕在化せず共存共栄をしていたが、高齢になったことと過労やストレス及び生来の冷え症・虚証によって症状が顕在化したとも考えられる。また、コレステロールと動脈硬化を意識過ぎて栄養不足になったとも考えらる。何れにしても薬を服用するのは、栄養や適度な運動をした経過を診てから服用しても遅すぎることはないわけであるので、緊急性がない故に第一選択として副作用の強い薬を服用しないことはある意味で当然だと思われる。
<次号までの宿題>
 恒例により、次号までに読者諸兄の頭の体操として問題を出します。
 景気が落ち込んだ年や、低所得者が多く住む地域・国では殺人・強盗などの凶悪犯罪が多く起こり、逆に好景気の年や高額所得者が多く生活する地域・国では知的犯罪が多発します。何故でしょう?

1) The impact of egg limitations on coronary heart disease risk:
Do the numbers add up? D. J. McNamara J. Am. Coll. Nutr. 19(5), 540S­548S (2000)
2)Apolipoprotein­E phenotype and basal activity of low­density lipoprotein receptor are independent of changes in plasma lipoprotein subfractions after cholesterol ingestion in Japanese subjects Y. Honma et al.東海大学、慶応大学)Nutrition 17, 310­314 (2001)
3)「高コレステロール食(卵黄3個+日本茶)長期常用者における血中リポ蛋白動態について」福生吉裕他「動脈硬化」第10巻第5号 (1982)

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