症例から学ぶ悪性疾患の鑑別法-その37

症例から学ぶ悪性疾患の鑑別法-その37 ・・・・キーワード11「癌の可能性が高い。貴方ならどうする?-21」・・・・              東京衛生学園臨床教育専攻科講師 小川 卓良

 はじめに、前号の宿題の回答から進める。<前号の宿題>  以前、(社)全日本鍼灸学会東京地方会の研修会にチョコレートに含まれるポリフェノール(カカオマスポリフェノール)の制癌作用や心筋梗塞発症リスク軽減作用などについてTVでも有名な東海大学医学部助教授をお招きしてご講演をお願いした。ご講演は素晴らしいものであり、カカオマスポリフェノールの有効性については十分納得できる内容であった。しかし、多くの聴衆が持っていた疑問に対して、勇気ある会員が代表して最後に質問した。「先生、カカオマスポリフェノールの有効性には十分納得がいきました。ところでチョコレートには砂糖が大量に含まれているわけですが、そういうチョコレートは身体によろしいんでしょうか?」  助教授の衝撃的な回答が今回の問題である。 ・・・・・・・・・・・・・  「君ねエー、それを言っちゃおしめえよ」と、あのフーテンの寅さんの決め台詞が答えであった。この助教授もみのもんた氏が司会する昼間の番組にも出て有名になったが、極くたまに私もこの番組を見ることがあって、びっくりする専門家の意見を聞くことがしばしばある。ある部分だけを見れば有効性がある場合もあって、それはそれで事実であるが、他の部分を見たり状況を変えれば全然違った結論が出ることは幾らでもあるので普遍的に言えることではないことを、あたかも全ての結論のようにおっしゃるのでびっくりするのである。専門家はその部分(専門領域)しか見ていないので、そういう研究成果はアテにならない。  この助教授の話もまったく同様である。カカオマスポリフェノールの制癌作用や心筋梗塞発症リスク軽減作用は確かにあるが、だからといって砂糖の塊でもあるチョコレートが身体に良いという話はどこにもなく、むしろ悪いといった方が良い(トランス脂肪酸も相当含有されている)のでかの発言になるわけである。しかし、この助教授のおかげで、「カカオの恵み」とか「チョコレート効果」などというポリフェノールが多く含まれている材料を使ったチョコレートがいろいろ作り出され、あたかも健康に良いという印象で売っている。「先生、研究費を幾らもらったんですか?」と聞きたくなるのは下衆の勘ぐりだろうか。ただ、現在では「カカオの恵み」や「チョコレート効果」には砂糖の含有が極力抑えられた甘くない苦いチョコレートも販売されている。多分それはチョコレートダイエットが流行ったせいではないかと推測する。中にはカカオ99%というものも売られているが、それならば食料品売り場でカカオマス(100%)が売られているのでそのほうが安いし砂糖、ミルクが入っていないのでチョコレートよりも良い理屈である。  30年ほど前当時フーズドクターという称号で多くの本を出版していた東畑朝子先生が私の患者でいらしていた。治療するというよりも度々質問攻めにするようなところがあって一方的に治療代を頂いていたのは今思うと申し訳なかった。そのときに五味の話になって、「五味を均等にというけれども、熊の胆は高いし、現代ではなかなか苦味をとることが難しいのですが、簡単に現代で苦味を摂れる方法はないでしょうか」と質問したところ、先生はカカオがあるとおっしゃった。しかし、カカオはそのままでは非常に苦く、とても食べられる代物ではない。だからカカオに大量の砂糖を混ぜて食べる(チョコレート)のである。  実際に料理に使うといっても、日本料理に合いそうもなく患者さんにもなかなか勧められていない現状があるが、カカオマスや99%カカオのチョコレートならば良いかもしれないが、苦くて不味すぎる。 <味噌は体に良い?>  味噌も同じような話がある。前回、前立腺癌のリスク減少に大豆製品が良いという話をしたが、味噌も大豆製品である。大豆製品といえば醤油も大豆製品である。醤油は塩分とアミノ酸などの旨味成分が主成分であえり、幾らGABA(γ-アミノ洛酸)や大豆ペプチドが含有され精神安定・血圧低下・コレステロール低下作用やアルツハイマー病の予防効果などの可能性が指摘されてはいてもあまりにも塩分が多すぎて量を摂るのは問題が多すぎる。  では味噌はどうか。味噌は元々調味料ではなく、日本人の貴重な蛋白源であった。よって、蛋白質は豊富であり、各種ビタミン・ミネラルも多く含まれ、制癌作用や高圧効果などがいわれている。図1は食塩感受性があるDahlラット(6週齢)の雄を使った実験で、A群は味噌(含む塩分2.3%)を含む餌、B群は塩分2.3%の塩分を含む餌、C群は1.9%の塩分を含む餌、D群は塩分を0.3%含む普通の餌を与えて12週間飼育して、収縮期血圧の変化をみたものである1)。  このように普通餌の0.3%塩分に比して6~8倍の塩分を含む餌を与えた場合に収縮期血圧は約40mmHgも上昇するが、同量の塩分の味噌を含む餌の場合にはほんの少ししか上がらないという結果になっている。ここで面白いのは、雌ラットの場合には、1.9%の塩分を含む餌では普通餌や味噌含有餌と同様にほとんど血圧は上昇しなくて、2.3%の塩分を含む餌で初めて血圧が上昇するということである。いうなれば雌の方が塩分に対する感受性が少ないということで、これはヒトでも同様の傾向を示すということである(日本人の約3割は塩分摂取により血圧が上昇する塩分感受性を有するといわれている)。 cannser-fig37  図2は、制癌効果を見たものである1)。発癌物質を含む飲料水とともに、10%(塩分2.2%)と5%(塩分1.1%)の味噌を含む餌、2.2%と1.1%の塩を含む餌、及び普通餌の5群にわけて4ヶ月投与し、更に全ての群に水と普通餌を8ヶ月与えた結果の腫瘍(胃癌)発生率とその平均の大きさを示したものである。確かに同量の塩分を含む餌では味噌の方が塩分だけよりも癌の発症率も発症した癌の大きさも小さい事実がある。これは降圧効果と同様である。だから、味噌は降圧効果と同様に制癌効果があるということもできるが、塩分がこれらに比較して非常に少ない普通餌は味噌含有の餌よりも明らかに癌の発症率も発症した癌の大きさも小さいのである。実は降圧効果の方も有意な差ではないにしろ、味噌餌よりも普通餌の方が血圧は低い結果となっている。胃癌の最大原因は塩分の過剰摂取であるが、味噌は確かにそれを抑制する効果を持っているという実験結果であるが、味噌に含まれる塩分の影響は0にはできず、味噌を摂取すると胃癌になる確率が減るということでは決して無く、むしろ高まるという結果なのである。これはチョコレートと全く同様の図式である。  では、減塩味噌ならばよいか、という発想が出るわけであるが、減塩味噌は減塩醤油と同様に、通常の味噌と同様の味を出すことと、保存させるために普通の味噌よりも遥かに多い様々な添加物が使用されている2)。果たしてこれが身体によいかどうかは大いに疑問である。尤も、無添加で減塩の味噌や醤油があれば多少不味くても、持ちが悪くても、そして高くてもそれを使う方が良い。  ただ、味噌を擁護する立場でいうと、食塩が発癌のリスクでない大腸癌、肝癌、肺腺癌などでは容量依存的に(摂取量が多いほど)発癌リスクを減少させていることが分かっているので胃癌を除けば味噌は立派な発癌抑制剤食といえる。この点はかなりチョコレートとは違う。また、味噌も品質に関係があり、熟成度によって癌の抑制効果は変わり、熟成度が高ければ高いほどよいことも分かっているので1)、無添加で低温でじっくり熟成させた味噌を選ぶ必要がある2)。これは醤油も同様である。 <現代の病気の真の原因は>  現在(1998年)と100年前の病気や死因を比較することは、確かに公衆衛生や平均寿命など様々な要因が違うし、医学の診断レベルが違うので単純な比較はできないが、事実として米国では現在3人に一人が心臓病に冒されているが、100年前の米国にはほとんど無かった病気である。同じくアルツハイマー病も100年前には存在しなかったのに、現代アメリカの死因の第4位である。がんも100年前の欧州と米国では全死亡の約3.%を占めていたのに過ぎないが、現代では1/3が癌に罹患し、1/4が癌で死んでいる。DMも100年前の米国では何と10万人に一人だったのが、今では20人に一人である3)。癌に関してはもっと驚くことに1980年代の米国では癌の発病は米国で10人に一人だったので、たった10年そこそこで癌の発症は3倍以上になったのである3)。  もう一度沖縄26ショックを思い出していただきたいが、多くのファーストフード、ジャンクフードが米国や沖縄に出始めたのは1970年代前半で、怒濤の勢いで全米そして世界中に広がっていったのは衆知の通りである。  そして、これらのジャンクフードを長年食べて育った世代が癌や高脂血症・DMなどの病気になりやすい中高年に2000年前後になっていったのである。どうしてもトランス脂肪酸の問題を切り離して考えることができない。 <トランス脂肪酸の有害性> 前号で述べたように、トランス脂肪酸は人体に有害な油である。トランス脂肪酸が初めて問題になったのは、1990年世界的に権威のあるニューイングランドジャーナルオブメディシン誌にトランス脂肪酸を摂取したヒトのLDLコレステロールが増加し、HDLコレステロールが減少したというオランダの研究(Mensink Katan,”Trans Fatty Acids and Lipoprotein Levels,”New England Journal of Medicine,Vol.323,No.7 1990)が発表されて以来である。この結果は当然心臓病リスクを高めることになり、日本よりも5~10倍も心筋梗塞死が多い欧米諸国では大変ショッキングなニュースであった。  前号で示したトランス脂肪酸の有害性を再掲すると 1、血管内皮細胞を損傷し、動脈硬化を進め心臓病のリスクを増大する。 2、喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎などを引き起こす。 3、ボケやすく、アルツハイマー病との関連があるといわれている。 の3つが最も大きな有害性である。  まずはじめに、血管内皮細胞の損傷の件であるが、Harvard School of Public HealthのEsther Lopez-Garcia氏らの研究が有名である。この研究は、米国看護師健康調査登録者ので、43~69歳の健康女性727人を対象としてアンケートにより、調理油と食卓用油の商品名と、マーガリン、マヨネーズ、フレンチフライ、市販の焼き物、ファーストフードの揚げ物の摂取状況を調査して、トランス脂肪酸の摂取量を推定した。そして、トランス脂肪酸の摂取量を0.61~1.87g、1.88~2.26g、2.27~2.64g、2.65~3.13g、3.14~7.58gの5段階に分け、炎症因子としてCRP、IL-6、sTNFR-2、接着分子としてEセレクチン、sICAM-1、sVCAM-1などの血中濃度を算出した。その結果、最多摂取量群のCRP値が最小摂取群より73%高かったのをはじめ、Eセレクチンが20%、IL-6が17%等全ての項目で摂取量の多い群程高い値を示した。その他年齢、BMI、運動、喫煙などのリスク要因と各種脂肪酸の摂取量について調整した後でも、トランス脂肪酸の摂取量が多いほどCRP、sTNFR-2、Eセレクチン、sICAM-1、sVCAM-1等の値が悪くなることが分かった。この結果により、Garcia氏らは、トランス脂肪酸が血管内皮の細胞膜に作用し、炎症因子や接着分子の産生を促す可能性を指摘、「このメカニズムによって、トランス脂肪酸による血清脂質への影響だけでは説明のつかない心血管疾患リスクの大幅な増加がもたらされている」と見ている4)。  このことは、単のトランス脂肪酸を大量に摂取した場合にLDLコレステロールやトリグリセリドが増加しHDLコレステロールの減少をもたらすことで心血管疾患や2型糖尿病にかかるリスクを高めるだけでなく、様々な疾患の原因になっていることを示唆するものである。様々な炎症因子が増加するということは過剰な免疫反応を起こすということでもあり、2番目の喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎などを引き起こす原因となる可能性は高い。 もともと脂肪酸は、生体を構成する細胞膜の基本成分であり細胞膜に、トランス型脂肪酸が取り込まれると、本来のシス型脂肪酸と立体構造が異なるため、細胞膜のところどころに隙間ができたり、不安定になる。このことによって幾つかの大きな問題が起きる。一つは腸管の細胞の細胞膜の場合には、腸壁に本来無い大きな間隙ができて大きな有害分子を吸収してしまい様々な炎症を起こし、アトピーやアレルギー疾患を初めとする最近の現代病の元になっている可能性がある。  また、皮膚の細胞膜にも同様のことが起こり、様々なアレルゲン物質を体内に取り込んでしまうということが起きる。アトピー性皮膚炎や花粉症の大きな原因になる可能性が大きい。  その他、細胞膜の脂肪酸は免疫学的には炎症や免疫を促進(抑制)するプロスタグランデキン系の元となるがトランス型脂肪酸は生体内でプロスタグランジン系を作る元として使えないためにトランス型脂肪酸を含む細胞膜は局所での炎症反応の調節に障害が起きる可能性も大きいのである。  また、当然のことであるが細胞膜に異変が起き、その修復がままならなければ、細胞そのものが異型化して、更に癌化する可能性も非常に高いのである。  3番目のアルツハイマー病との関連については、シカゴからの研究報告が有名である6)。これは、トランス脂肪酸と銅の摂取が多いと精神機能の低下を速める可能性が高いというもので、銅の単独摂取では問題はないが、トランス脂肪酸との併用摂取において問題であるということであるが、元々銅は自然にも摂取しているし、トランス脂肪酸は今まで摂取してなかったものであるから、トランス脂肪酸を摂取する精神機能の低下を速めると読み替えても同様である。この研究は平均年齢74歳の3718名を対象として、食事評価は食品頻度質問表によるものを用い、4つの認識テストを3年目と6年目に実施した。平均5年半の追跡の結果、年に平均約4.2 ポイント認識テストの結果が低下したが、トランス脂肪酸を摂取した604人においては、トランス脂肪酸を摂取していない群に比して有意な認識低下(6.14ポイント)をみたというもので、この認識低下メカニズムは、脳にアルツハイマー病の原因である斑(プラーク)の形成に関係しているということである。  何れにしても、以前はほとんど無く現代病といわれる、高脂血症、DM、癌、アトピー体質、アルツハイマー病などが近年増加していることと、時を同じくして摂取量が急激に増加しているトランス脂肪酸の関連は相当高いといわざるを得ない。 <トランス脂肪酸を多く含む食品>  トランス脂肪酸を多く含むマーガリンやショートニングはクッキー、クラッカー、パ ン、ケーキ、コーヒーに入れるフレッシュ、アイスクリーム、レトルトカレーなどの加工食品によく使われているので、ほとんどの人は一日に、若干はトランス脂肪酸を取り入れている。特に、コンビニエンスストアに売られてられている様な食品が問題である。  このショートニングで揚げたフレンチ・フライ1人前は8グラムのトランス脂肪酸が含まれ、チキンか魚のフライを付けたファースト・フードの標準メニューには10グラムのトランス脂肪酸が含まれているというメリーランド大学M・エニグ博士の報告がある。  また、トランス脂肪酸は、自然界にも存在し牛乳や乳製品、反芻動物(牛、羊など)にもその肉の脂肪中に4~5%含まれている。また、液体の植物油においても精製過程でトランス脂肪酸が作られ、特に高温で早く精製された油はトランス脂肪酸を多く含んでいる。昔ながらのコールドプレス(熱くしないで叩いたり圧縮したりして少しずつ油を抽出する方法)で作られた油にはトランス脂肪酸はほとんど含まれない。  その他、買った時にはトランス脂肪酸が含まれなくとも、高温で調理する過程でトランス脂肪酸が作られるのでなるべく高温で調理しないか、一度使った油は二度と使わないようにする必要がある。  しかしながら、現代病の増加に関しては様々な要因があり、トランス脂肪酸のみにその原因を押しつけるわけには行かない。 <次号までの宿題>  癌の発症に関して、そして治療及び再発防止に関して生活習慣の見直し、その中でも食事は最も大事な要件であり、そのためにこのところは多くのページを費やしてきた。そろそろテーマを変えたいと思うが、食事に関して最後に読者諸兄の頭の体操ように次号までの宿題をお出ししますので宜しくご検討の程お願いします。 [問題1]トランス脂肪酸の摂取が癌などの現代病の発症に大きく関係しているのはもう紛れもない事実であるが、油に関していうとそれだけではない重大な問題が出てきているのである。この点も考慮しないとトランス脂肪酸を多く含むジャンクフード等を食べないだけでは現代病を克服することはできない。それはどういうことでしょう。 [問題2]以前、鰹や昆布・椎茸などでじっくり出汁を摂って料理を振る舞った友人が突然また見えたのであまり手間暇かけずに料理を出したところ、「貴女、腕を上げたね」といわれた。どうしてでしょう。 <参考文献> 1)渡邊 敦光 「味噌の血圧抑制と制癌作用」日経CME 2007年4月号 2)安部 司 「食品の裏側:みんな大好きな食品添加物」 東洋経済新報社 2005 3)J・フィネガン著 今村光一訳「危険な油が病気を起こしている」 中央アート出版1998 4)板倉弘重 「脂質の科学」 朝倉書店 1999 5)Esther Lopez-Garcia el.「Consumption of Trans Fatty Acids Is Related to Plasma Biomarkers of Inflammation and Endothelial Dysfunction」 The American Society for Nutritional Sciences J. Nutr. 2005 6)http://www.nutraingredients.com/news/ng.asp?id=69879-copper-trans-fat-alzheimer-s

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