Ⅰ、はじめに
鍼灸師は西洋医学に対して劣等感或いはその裏返しで根拠のない自信を持っていることが多いようだ。そして鍼灸師も一般国民も「西洋医学は本質的治療で、東洋医学は対症療法」という認識を持っていることが多いのではないか。また、東洋医学だけを学び・研究している鍼灸師の中には西洋医学を深く学ぶことなく批判し「東洋医学こそ本質治療である」という人が多くいる。
近年、医学の評価はエビデンスベースであり、「効く」とか「有効である」といってもエビデンスがなければも評価されない。西洋医学においても実際きちんとしたエビデンスは少ないのであるが、東洋医学・鍼灸はもっと少ないのが現状である。そして、現在古典の記載事項がほとんど科学的に検証されてないのに関わらず、「古典は正しい」と評価しているようでは、医学的には問題外である。
西洋医学は学歴の高さ、高度な医療設備等、東洋医学にない優位な点が多々あり、そのために診断や病態把握力は東洋医学の比ではない。しかし、治療面では本質的治療はあまりなく、多くは対症療法であり、しかも副作用を伴う。西洋医学は発展してきたが、そのパラダイムは不変で、癌、糖尿病やフレイル、ロコモ、副作用等の問題など課題は多く、健康寿命を大幅に伸ばすことも未だ難しい。また西洋医学の発展には医療機器或いは新薬の研究開発等を伴うため、発展するほど費用がかかるという問題を内在している。少子高齢化が急伸する我が国では医療費の削減は非常に大きな課題であり、矛盾がある。
本稿では「治る」或いは「治す」とはどういうことか、ということを中心において論を進める。
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