健康のお話

精神神経免疫学(PNI)と鍼灸 -2-

1.逆制止理論

 行動療法(認知療法、behavior therapy:BT)とは、学習理論や行動心理学の立場から、神経症および心身症の症状(感情や行動)は誤ってあるいは不適切に学習された結果、もしくはまだ適切な反応を学習していないものと見なして、様々な技法を用いて不適切な反応を修正し、行動変容を図ろうとする治療法です。
 行動療法では心理的な不安と身体的な弛緩(筋弛緩)は拮抗すると考え、身体が弛緩している状態では不安は生じないとし、この現象を“逆制止”と呼んでいます。この“逆制止理論”に基づき、筋弛緩法(Jacobson-Wolpeの筋弛緩訓練法)が提唱されました。ここでは神経症的不安に拮抗するのは逆制止現象であるとして、筋弛緩訓練が最も重要と考えています。一般的にはリラクゼーション訓練法とも解釈できます。
 行動療法においても催眠療法、ヨーガ、禅、自律訓練法、バイオフィードバック法など、何れにおいても心身のリラクゼーションを基本としています。

2.逆制止理論と鍼灸

 さて、鍼灸治療では、治療の後に身体だけでなく「気分もすっきりした」とおっしゃる患者さんがたくさんいらっしゃいます。昔から“心身相関(心と体は相互に関係している)”と言われるので、体が軽くなれば気分も軽くなるのだろうと単純に考えておりました。
 背骨の両脇の筋肉(脊柱起立筋など)は、重力に対抗して姿勢を保持するために身体を支える働きをしており、抗重力筋と呼ばれます。寝ている姿勢では重力に対抗する必要はありませんから、抗重力筋は働かなくても良いわけです。ですから、背中の治療をするのに伏臥位(うつ伏せ)で寝ていただいたとき、多くの方は脊柱起立筋の盛り上がり(緊張)は見られません。ところが、中には脊柱起立筋が異常に盛り上がり、いかにもスジ張ってカチンカチンになっている患者さんがいらっしゃいます。
 皮下に脊柱起立筋があるような背中には重要なツボ(経穴)がたくさんあって、鍼を刺すことの多い部位です。もちろん痛みなどの症状があって筋緊張が強い場合にも鍼をするのですが、このとき伏臥位でも脊柱起立筋が異常に盛り上がっている方では、鍼の刺激に過敏なことが多く、治療の回数も少し多めにかかる傾向があります。ですが、脊柱起立筋の緊張がとれてくると刺激への過敏性が和らぐと同時に、怖がりだったり不安が強かったりなどナーバスだった方が穏やかになっていかれます。
 鍼治療には刺鍼部位の血行を改善し、当該筋の緊張を緩める作用のあることが証明されています。その作用によって、筋弛緩訓練と同様の効果を生じさせ、神経症的症状を和らげることが考えられ、鍼灸治療は逆制止論を利用できる一つの治療法だと言えるでしょう。

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