健康のお話

精神神経免疫学(PNI)と鍼灸 -1-

 精神神経免疫学(PSYCHO-NEURO-IMMUNOLOGY)とは、米国を中心として誕生した新しい学際的分野である。これは生体のホメオスターシス(恒常性維持機能)を司る自律神経系、内分泌系に新しく免疫系を加え、“心”と“身体”の関係を調べようという学問であるとともに、生体に備わっている治癒力を研究する分野でもあります。最近では、人間の精神・感情の変化も免疫系に大きく関与することがわかりました。PNIの発展により様々な成果が報告されていますが、その中には配偶者の死別と免疫系の働き、宇宙飛行士の免疫能、結婚生活の破綻によるストレスや試験のストレスなどを対象とした研究もあります。免疫系を通して「心の乱れ」を観察し、ストレス度を客観的に捉えようとした研究で、それらの報告によれば、白血球であるリンパ球の一種のT細胞・B細胞の機能低下、ナチュラルキラー(NK)細胞の活性低下、血漿IgA、IgG、IgMの有意な上昇、PHA/ConA(リンパ球刺激試験)での幼弱化反応低下などが実証され、「心の乱れ」による明らかな免疫能低下が示されました。
 昔から『病は気から』と言われ、深い悲しみやストレスがあると感染症やがんに罹患し易くなることはよく知られていますが、同時に食欲不振、欝的気分、倦怠感、疲労感なども引き起こします。欝病は、様々な疾患の発生と関連していますが、最近では慢性疲労症候群との関連で注目されています。
 先頃、筑波大学名誉教授の村上和雄先生が、吉本興業と共同で「笑いと免疫の関係」を研究し、笑いによって免疫力が向上する事実を突き止めたことは有名な話です。『笑う門には福来たる』は、福が来たから笑っているのではなく、いつも明るく楽しい家庭は皆健康で幸せになるという意味だということです。
 図はPHIにおける、心(精神)と自律神経系、免疫系および自律神経系に大きく関わる内分泌系の関係を示したものです。この自律神経系-免疫系-内分泌系が“身体”の恒常性を維持するためのシステムです。精神神経免疫学では、このシステムに“心”が大きく影響すると言っています。
 精神状態が良ければ体調が良く、悪ければ体調も悪いというように、良くも悪くも“心”の変化は“身体”のホメオスターシスに影響を与えるでしょう。ですが、その逆も然り、“身体”の状態が“心”を変化させることもあるということです。

PNI 図

※ PHA/ConA(リンパ球刺激試験)
リンパ球は、「非自己」である物質を抗原として認識し、それを排除しようとする働きをする。この試験は、抗原の代わりに非特異的なマイトージェンであるPHA(フィトヘマグルチニン)およびConA(コンカナバリンA ; ともに植物由来のレクチン)とともにリンパ球を培養し、その反応性からTリンパ球の機能を調べることを目的に行うものである。

※ マイトージェン
リンパ球を非常に低い濃度のレクチンとともに培養すると、リンパ球が増殖し、分裂するようになる。このように静止期にあるリンパ球を成長・増殖する状態(幼弱化)へのきっかけになるものをマイトージェン刺激と呼び、異物(抗原)に対する免疫応答の鍵となる重要な現象である。

※ リンパ球幼弱化
リンパ球は骨髄にある多能性骨髄幹細胞から分化・成熟し、免疫機能において重要な役割を果たしている。成熟したリンパ球はそれ以上、分裂・増殖することはないが、リンパ球はそれが対応する特定の抗原に出会った場合などでは、形態的に成熟前の形(幼若な細胞形態)になり、細胞分裂により増殖するようになる。この現象をリンパ球幼若化という。

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