病気と鍼灸

白内障が鍼灸治療で治るのか?

 鍼灸治療で白内障が治ると健康雑誌に書いたところ、早速眼科医からご意見を頂戴しました。「白内障は加齢とともに不可逆的に進行する変性であるから、鍼灸で治るというのは誤りである。そうでないというのなら治る機序を説明しろ」というのです。
 目の疾患は、その病理と鍼灸の効果機序を考えると、治りそうにないものが多いのは間違いありません。例えば白内障ですが、水晶体には神経も血管もありませんから、自然治癒力が働く可能性はほとんどありません。その上、白内障は加齢とともに進行する水晶体内の不可逆的な濁りですから、外科的に取り除く手術をするのでなければ、理論上はどんな治療をしても治ることはないはずです。しかし、患者さんの多くは「この部屋はこんなに明るかったの!」とか「40Wが100Wになったよう!」と表現され、鍼灸治療後に視界が明るく感じたり、霞が取れてハッキリ見えるようになったりすることは、ごく普通にあります。このことは、霧視(かすみ目)が単に水晶体の白濁だけの問題ではなく、他の要因にも影響を受けることを示唆しています。
 物を見るときには、角膜から入った光が水晶体→硝子体→網膜→視神経→大脳に至って初めて認識できます。目から脳に至るまでの経路のどこかに血液循環が悪くて機能が低下している箇所があり、それが鍼灸の刺激を受けて改善し、見え方に変化が生じることは大いに考えられます。もちろん鍼灸治療では形態を変化させることはできませんが、単に部分だけの問題と捉えて諦めたり、頭から不可能と決めつけてしまったりするのは勿体ないと思います。
 「治る」という意味をどう捉えるか、言葉の定義に問題があります。眼科医がおっしゃったのも、そのあたりの認識の違いからだろうと思います。医師であれば、“水晶体の濁り”がなくなることを「白内障が治る」と定義するでしょう。ですが、水晶体の濁りはあっても、“視界のかすみ”がとれたならば「白内障の症状が治った」と言っても良いのではないでしょうか。反対に、“視界のかすみ”がとれてなくても、“水晶体の濁り”がなくなったとき、患者さんは治ったと感じられるでしょうか?
 人間の治そうとする力は偉大です。だからといって、万能でないのは言うまでもありません。

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