病気と鍼灸

帯状疱疹および帯状疱疹後神経痛(PHN)と鍼灸治療

 ヘルペスは帯状疱疹と単純疱疹に分けられ、単純疱疹は主に口唇ヘルペスと陰部ヘルペスに大別できます。単純疱疹は帯状疱疹と比較すると再発を繰り返しはするものの比較的症状が軽いか症状が治まりやすく、鍼治療でも比較的簡単に治せます。対して帯状疱疹は、過去に罹患した水疱瘡のウイルスが原因で起きる疾患です。水疱瘡が治まった後もウイルスは体内に残っていて、主に神経節に潜んでいます。それが何らかの原因で私たちの免疫力が落ちた時に急激に繁殖し、神経線維に沿って広がって帯状疱疹を発症します。
 帯状疱疹に対する西洋医学の治療では、抗ウイルス剤あるいは抗ヘルペス剤などと呼ばれる薬は幾つかありますが、何れもウイルスを殺す薬ではありません。それはウイルスの増殖を抑制するものなので、まだ増殖の少ない初期の段階で服用(塗布)しなければ効果は発揮されません。そして、この時の効果とは“すぐに治る”ことを指すのではなく、“治癒期間が若干短縮される”ことを意味します。この効能はインフルエンザに対する抗ウイルス剤(タミフル)によく似ており、副作用でもタミフルと同じような症状が起こります。その副作用には、下痢や吐き気などの胃腸症状、発疹などの皮膚症状、めまい、眠気、頭痛、加えて過量になると意識障害や精神変調を起こしやすくなる等があります。
 さらに薬の併用によって問題が生じます。例えば、抗がん剤を服用している人は免疫力が格段に衰えるので帯状疱疹を併発しやすくなるのですが、抗がん剤と抗ヘルペス剤を併用した方が死亡するという症例が数多く報告されています。これは、薬の飲み合わせによる相互作用から起きたものではなく、それぞれの薬の副作用が重なって起きたものと考えられます。とすれば、抗がん剤を服用していない人が抗ヘルペス薬を服用して副作用らしき症状は現れなかったとしても、わからないところで何らかの有害作用が起きていると考えるのが自然でしょう。
 帯状疱疹、単純疱疹どちらもヘルペスは免疫力が落ちた時に発症します。これは同じくウイルスによって発症する風邪も同じです。ですから皆さんがご自身で行えるヘルペスへの対応は、風邪に対する対策と同じと考えて良いと思います。予防には疲労・ストレス・睡眠不足を溜めないようにし身体を冷やさない、治すには自分の免疫力を高めてウイルスをやっつける、そのためには暖かくして、暖かいものを食べて栄養をつけ、早く寝ること、この3つが基本です。そして、鍼灸治療には免疫力を高める効果があることが既に立証されていますので、鍼灸治療を受けることで早く治せます。
 (公社)全日本鍼灸学会の元監事で東大医学部卒の外科医である渡辺裕先生は、鍼治療も積極的になさっていて、「帯状疱疹を治せない鍼灸師はヘボだ」と仰っていました。皮膚に現れる水疱は通常2~4週間程度で治りますが、帯状疱疹で最も怖いのはヘルペス後神経痛(PHN)に移行することです。高齢者ほど移行しやすく、60歳代では約半数がPHNになるといわれています。PHNの苦痛度は千差万別ですが、治す薬はありません。痛み止めやブロック注射などで痛みを和らげることすら難しく、四六時中ツキーンツキーンと神経を走る痛みで寝られず、ご高齢の方では睡眠不足で体調が悪くなり、食欲が落ちて衰弱してしまい、お亡くなりになった方もいらっしゃるほどです。ですが、帯状疱疹を発症してすぐから鍼治療を行えば、ひどいPHNに移行することはほとんどありません。
 若かりし頃の小川の経験談ですが、『PHNになってしまった患者さん3人の治療をし、若干改善はするものの治すことはできなかった。そんなある日、杏林堂の患者であった方から「ある病院の院長がPHNで苦しんでいる。西洋医学を色々試したけれど治らないらしいので鍼治療をしてくれないか」と治療依頼があり、以前の3人の経験から「自信がない」とお断りしたが、「駄目元で良いから」と仰るので引き受けた。それならば!と毎日治療した結果、1ヶ月で大分改善し、2ヶ月でほぼ完治した。それ以降、治療回数を週3回以上に増やせば良いのではないかと思い、PHNの患者さんも積極的に引き受け、今のところ20勝2分けで勝ち越している』とのことでした。ここで言う“勝ち”とは完全に治ったから体調が悪いと多少違和感がある程度までを含むケース、“引き分け”とは痛みはなくなったが多少の違和感やヒリヒリ感が残ったケースということらしいです。
 PHNの治療開始は、早いに越したことはありませんが、1年以上経過した方でも治っています。現在も、PHNに移行してから4年以上、何をしても治らず、ここへ来てさらに痛みが増して耐えきれなくなったと来院された患者さんの治療をしています。

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