花材:トリカブト・カラー・セロシア・入才ラン・トルコキキョウ・丸葉ルスカス
今週は「トリカブト」に注目します。いつだったか、もうずいぶん前(20年?もっと前?)に殺人事件に使われたことで有名になりましたよね。人を殺せるほどの毒を持つのに、結構その辺に自生しているというので、当時びっくりしたのを覚えています。
トリカブトはキンポウゲ科トリカブト属の総称として使われている名前で、単にトリカブトという名の花はないそうです。トリカブト属の学名はAconitumといい、その仲間は北半球の温帯~亜寒帯地域に約300種が分布し、多くは多年草、稀に一年草のものもあります。日本にも北海道から九州まで広く分布しており、30種以上が知られているそうです。里山程度の低い山から亜高山帯の森林や草原にあって、枝葉の隙間から日の光が微かに零れ落ちる半日陰の比較的湿気の多い場所を好んで生育しています。
トリカブトはドクウツギ、ドクゼリと並んで日本三大有毒植物の1つとされ、非常に強い毒性を持つことで知られています。ですが、毒はあっても芥子や大麻と違って売り買いも育てるのも別に違法ではありません。ただ、トリカブトは根から茎、葉、花や花粉に至るまで全てに毒があり、野草として食されるニリンソウやセリ、ゲンノショウコ、ヨモギなどと葉の形が似ているので、現在でも誤食が時々あり、注意を促すためにニュースになります。また蜜にも毒性があるので、トリカブトから集められた蜂蜜を食べるのは危険なのだとか。なので、養蜂家はトリカブトの開花時期と自生する地域を避けるのだそうです。
こんなことからトリカブトは毒を持っていて危険というイメージが先行していましたが、花はとても綺麗です。今回は青紫色でしたが、その以外にも白・ピンク・黄色などがあるそうです。トリカブトの名前も花を見れば納得、僧侶のかぶり物のような形をしています。古来の装束の被り物である鳥兜・烏帽子(えぼし)に似ている花姿から名前が付いたと言われています。英名でも「monkshood=僧侶のフード」という名が付いています。
私自身はトリカブトを見るのは今回が初めてでしたが、昔から生け花などによく利用されてきた花だそうです。ふつう日本でトリカブトというと東北地方から中部地方に分布する日本固有種のヤマトリカブトを指すことが多いようですが、花材に使われるのは江戸時代に薬用植物として中国から渡来し観賞用に栽培されていたもので、ハナトリカブト(別名カブトギク)と呼ばれるトリカブトの仲間でも花が大きく毒性が弱い種類です。また、明治中期にヨーロッパから入ってきたヨウシュトリカブトは丈が高く、茎頂に総状に花をつけ見栄えがします。現在、花材として用いられるのはこの2種類ですが、出回っているのはほとんどがヨウシュトリカブトだそうです。
毒の話ばかりしましたが、裏を返せばその効果は薬にもなるということです。昔から乾燥させたトリカブトの根は利尿剤、強心剤、鎮痛剤として用いられてきました。漢方薬に用いられるトリカブトには3種類あり、親根を烏頭(うず)、親根の横に付いた子根を附子(ぶし)、子根が成長し芽を出した若根を天雄(てんゆう)と呼びます。ですが、一般的にはそのような細かい区別はせず、すべて附子と呼んでしまっているのが現状です。
また附子は、薬として使うときには「ぶし」と呼びますが、毒として使うときには「ぶす」と呼ばれます。俗に美人でない人のことを「ブス」と言いますが、これはトリカブトの毒で神経が障害され、顔がおかしくなってしまった状態を指すという説があります。
トリカブトの毒は主にジテルペン系アルカロイドのアコニチンと言う成分で、他にもメサコニチン・アコニン・ヒバコニチン、低毒性のアチシン・ソンゴリンなどの成分が含まれます。経口摂取した場合には数十秒で死亡する即効性があります。毒の強さは植物としては世界最強、天然毒ではフグに次ぐと言われています。これを古代ヨーロッパでは槍の穂先に塗ったりオオカミ退治に利用し、アイヌの人たちは矢や銛に塗り、人間より全然大きい熊やクジラを捕獲していました。
トリカブトによる死因は、心室細動ないし心停止。今のところ効果的な治療法や解毒剤はないそうです。とは言え、口にしないかぎり死ぬようなことはないので、必要以上に神経質になることはなさそうです。
コメント