症例から学ぶ悪性疾患の鑑別法-その31

症例から学ぶ悪性疾患の鑑別法-その31
・・・・キーワード11「癌の可能性が高い。貴方ならどうする?-15」・・・・
                   東京衛生学園臨床教育専攻科講師 小川 卓良

 前回、なぜ血圧が高くなるのか、を少し深めててみたが、今回は更に深めて降圧剤が本当に必要かどうかを考えてみたい。
<前号の宿題>
 Lancet誌に掲載された、日本初高脂血症治療の無作為化対照比較一次予防試験のMEGA Study の大きな落とし穴について考えていただいた。
 外来通院している患者の中から、年齢が男40~70歳、女性は閉経後から70歳、平均年齢58歳で女性68%・男性32%、血清TC(総コレステロール)値が220~270mg/dl(平均243mg/dl)、体重40kg以上の8214例を抽出し、無作為に食事療法単独群(D群)と食事療法+プロバスタチン併用群(D+M)に割付け、家族性高コレステロール血症患者、動脈硬化性疾患(冠動脈疾患、脳卒中、TIA、閉塞性動脈硬化症)の既往のある人、癌・重篤な肝障害・腎障害の既往のある人、二次性高血圧症患者を除外して、PROBE法(prospective前向き、randomized無作為、openlabelledオープン:患者と医師は共にどちらに振り分けられたかを知っている、blinded endpointsエンドポイントは盲験化する)で平均5.3年間追跡した研究である。半年ごとに空腹時採血を行って追跡したものである。高血圧症の合併は42%、DMの合併が21%であり、総コレステロールTCの平均値は243mg/dl、LDLコレステロールLDL-Cの平均値157mg/dl、HDLコレステロールHDL-Cの平均値57.5mg/dl、中性脂肪TGの中央値が127mg/dlという患者背景である。この結果、TCがD群で-2.1%、D+M群で-11.5%、LDL-CがD群で-3.2%、D+M群で-18.0%、HDL-CはD群で+3.2%、D+M群で+5.8%、TGがD群で-2.5%、D+M群で-8.1%となり、冠動脈疾患、全心血管系疾患、総死亡がD群に比較してD+M群は有意に減少したということであった。そして、重篤な有害事象、臨床検査値異常、癌の発生はいずれも両群で差が無かったという結果を得たわけである。
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 お気づきのように、問題はPROBE法のO(オープン)にある。この方法は一般的には実薬対照の試験、すなわち今まで有効性を認められていた薬物と新薬等の他の薬との比較に用いられる方法である。両方共に薬を服薬しているので、いわゆる臨床効果(非特異的効果)は当然ある。しかし、MEGA Study での対照は食事療法を指導しているとはいっても無治療群である。当然のことながら臨床効果はない。それどころではない。食事療法群は半年に一度の採血の時にしか病院に行かないが、プロバスタチン併用群では投薬のためにに月に1~2度通院し医師と話をする。その際に当然のことながら食事療法などの指導も更にされるであろうからコンプライアンスも高くなることは必定である。また、食事療法群では非特異的効果がないばかりでなく、治療を受けるべき状態なのに治療を受けていないというストレスがある(今までは受けていた)。素人なので治療を受けないと死んでしまうのではないかと恐れるわけであるが、このストレスは素人故に我々の想像以上に大きいことが充分考えられる。先般、薬の妥当性について研究をしているグループの勉強会に出席してきたが、その席MEGA Studyのことを質問したところ、問題にされなく、この研究の不備は20秒で看破されるということで、チョットびっくりした。専門家は今申し上げたこと以上にこの研究の問題点を色々指摘するけれども、これだけでも充分に不備なので詳細は省く。そこでもう一つの問題は、何故そんな不備だらけの論文がかの権威がある Lancet誌に掲載されたのか、ということである。当然ながら、Lancet誌に掲載された論文の不備を私がいうことはとてもおこがましくていえないのであるが(いってしまったが)、この勉強会でもこの話題が出た。MEGA Study のみならず、幾つか不備だらけの論文がLancet誌に掲載されていて、その不備について編集長に手紙を送るのであるが、全く無視されて掲載されないそうである。以前は論文に対する批判があると掲載されていた、ということで今世紀に入る頃に編集長が替わってからLancet誌の編集方針が変わったらしいということである。また、Lancet誌の親会社は軍需産業も行っているので(2年に一度欧州で大々的な武器博覧会を主催しているそうである)、そのような会社のやることは・・・・・。ということで、はっきりとは言えないけれど、医学的な権威よりも、寄付金の方が魅力的になったのではないかということで、編集長も替わったのではなく替えられた可能性すら有るのではないかという話である。
<またまた変わった高脂血症診療指針:でも何も変わらない>
 3月17日付けの日経夕刊には本年4月より日本動脈硬化学会が高脂血症の診療指針を改訂する旨の報道が掲載され、他の新聞のも掲載されているのでご存じの向きも多いと思うが数年前に血中総コレステロール値が220mg/dlから240mg/dlに改訂され(また元に戻されたのか、この報道では旧指針では220mg/dlのままになっている)、今回は総コレステロール値では無くLDLコレステロール(悪玉)が140mg/dl以上というように改訂された。その上にこの指針は、投薬開始の指針ではなく高血圧や喫煙などのリスクファクターが2つまでの患者には3~6ヶ月間食事内容や禁煙の指導を行い改善しない場合にに投薬を検討するということが明記された。以前の指針ではこのところは曖昧で、ほとんどが直ぐ投薬開始していた。改訂の目的として、以前の基準では日本人に多いHDLコレステロール(善玉)値の高い人も治療対象となって不要な投薬治療に繋がるのを防ぐためということである。一歩前進であるが、この基準であると女性の半分くらいはこの基準に当てはまるし、何よりも日本女性に多いLDLも多いがHDLも多い人も含まれ、改訂目的に矛盾する。
 また、このシリーズの28で紹介したが、鬱とコレステロールの関係、コレステロールと暴力犯罪の関係から鑑みるとLDLコレステロールも全身にコレステロールを運ぶ役目をしているので決して悪玉でないことを書いた。基本的にコレステロール自体が悪者であるならば、それを全身に運ぶ役目があるLDLは確かに悪玉で、全身からコレステロールを回収するHDLは善玉ということになるが、元々コレステロールは身体にとって重要な働きをするものであるから、LDLを悪玉ということ自体が問題なのである。この診療指針の改訂にMEGA Study の結果が反映されたかどうかは不明であるが、総コレステロールを下げるべしという考えは排除された。ただ、実態はほとんど変わらない。
<第4相試験>
 新薬(有効性・安全性が確認されない段階では、薬という字を使うべきでなく、「化学物質」ないし単に「物質」という呼ぶ方が正解:新薬というと「効く」というイメージが先行する)が実際に有効かどうかを人間に対して用いる時には、3段階の試験が行われる。1段階目は毒性・安全性の試験で対照はおいて無く、被験者に新薬?を服用させてその反応を見て、どれだけ飲ませることができるかということを確認するだけである。次の段階は、安全な量・有害な量の範囲を調べることで、この段階である程度目安がつけば対照をおいて毒性の試験をすることもある。第3相試験が有効性の最終確認する薬効検定試験で、多数の患者を対象として対照をおいたRCTを行う。しかし、タミフルの時にもいわれたが、この段階までのほとんどは、新薬を開発した製薬会社の寄附による研究費で行われるためにバイアスが入る可能性は非常に高い。研究費をもらっている会社の製品に悪い結果は出せない、または出ないように計らうのは人情である。そして、もし反対の結果を出したら次からは寄付金がもらえないのは確実であろう。しかしながら研究費が少ないので、紐付き研究をしなければならない現状があるのも事実で、このところのシステムの改善を政府は本気で考えるべきだと思う。
 一般的には、この段階で臨床試験は終わるのであるが、承認はしたものの実際に幅広く使われて、この新薬が有効かつ安全かどうかを再確認する臨床試験が第4相試験である。事実サリドマイド、キノホルム、タミフル?など承認された新薬が、実際に使われてから多くの問題・有害事象を引き起こした事例には枚挙がない。ただ、何れも死亡や重篤な有害事象が引き金となって問題視されたわけであるが、「有効性があまり無い」、「顕在化する有害事象がないが、徐々に人体をむしばんで死亡率を上げてしまう」ような場合には全く問題視されない。「新しい医学への道」を書き、薬害問題で多大な功績を挙げた高橋晄正氏は「一旦、健康保険の対象となった新薬及び治療法は特別に有害さが認められない限り、無効であっても少々有害であっても保険治療の対象となり続ける」という趣旨のことを書かれている。この第4相試験については、もしかしたらせっかく承認された薬が、取り消される可能性があるので発売元の製薬会社が資金を出して行うことはあり得ない。よって、実際にはほとんど行われてないのが実情である。
<血圧を薬で下げると癌になりやすい?!>
 しかし、日本で初めて大規模な市販後臨床試験が行われている。これは70歳~85歳までの重篤な合併症の無い高血圧患者を対象として当時の厚生省と循環器病研究振興財団が中心となって行われた研究である。しかしながら、医師と患者の協力が充分に得られないことと、脱落者(重篤な副作用が出た、来院しない、本人が臨床試験を止めたがった等の理由で最後まで臨床試験を続けられなかった人)が多く、途中で頓挫した実験であった。
 最も協力を得られないことは、高血圧患者に対して実薬ではなく偽薬を使うという倫理的な問題であった。これは確かに降圧剤使用が絶対的に正しいと思っている人々(医師も患者も)には大変な問題で、以前はともかく現在では生命倫理の立場から臨床試験をする場合には事前に説明をしなければならないので、「効かない薬が処方される確率が5割あります」とは医師も説明しにくいし、患者はもちろん嫌であろう。確かに降圧剤による効果が確実ならば、そのように言えるけれども、数百人規模の第3相試験だけでは確実性に乏しいのでそれを確認しましょう、ということであるが「日本では次世代の人のために自分が犠牲になるという」という意識は諸外国に比較して非常に乏しい、ということである。
 しかしながら目標の2千人規模の被験者は集められなかったものの314人を対象とした臨床試験はスタ-トした。その経過をみたのが図1である。2年間は収縮期血圧も拡張期血圧も降圧剤服用群(カルシウム拮抗剤)の方が有意に低くなっているが、3年後にはむしろ偽薬群の方が血圧が低いという逆転現象が起きている(有意ではない)。ただ、脱落例が多いのでこれだけでは何とも言えないが、少なくともそれほど降圧効果があるとは言えない。問題は脱落者を含めて被験者に発生した重大な副作用ないし重篤な合併症及び死亡例がどちらの方が多かったか、である。
<降圧剤服用群の方が癌の発症が有意に多い!>
 表1は、観察できた症例の重大イベント(重大な副作用及び合併症など)発生数をまとめたものである。重大イベントの発生数は降圧剤服用群が24%の25件、偽薬群は14%の13件で統計的有意にはならないけれど、降圧剤服用群の方が多い。ただし、偽薬群の心筋梗塞は心筋梗塞ではなく上室性期外収縮と心房細動であり、心筋梗塞よりはるかに軽症例。また。この中で脳梗塞は両群ともに1名ずつの死亡例があった。問題は癌の発症である。癌の発症だけに限ると統計的に有意に降圧剤服用群の方が癌の発症が高いのである1)。
 このような癌の発症を含めて重大イベントの発症が降圧剤服用群の方が多い、ということは薬の副作用なのか、薬を使って強制的に血圧を下げたこと自体が問題なのかは不明であるが、どちらにしても薬で血圧を下げることは本質的な治療とはとても言い難い。この臨床試験はこの時点で中止になったが、製薬会社の紐付き研究ではないのに何故降圧剤服用者の方が重大イベントが多かったのかという分析は全く行われず、高血圧診療ガイドラインにもこの結果は反映されてない。厚生省(現厚労省)及びその外郭団体といえども、厚生族議員の影響力は大きく、その厚生族議員の多くは製薬会社や医師会などからの政治献金をもらっている。尤も政権党そのものにも多額の政治献金がいっているが。この影響があるとはいうつもりは毛頭ないが、全く無いという方が難しいのが一般的な見方ではないでしょうか?
 前号で示したように、降圧剤が普及し始めてから脳出血死は激減したものの脳梗塞死は激増したこと、そしてその間に癌死が急増したこと、今号の臨床試験のように癌の発症を含めて降圧剤服用群の方が重大イベントの発症が多いことを考えると、降圧剤の服用については再考すべきと考える。少なくとも降圧剤を服用する前に喫煙、食事、運動等の生活習慣の見直しやストレスの多い仕事からの転職等の方が遥かに重要で本質的であり、鍼灸師としては極力、生活習慣の見直しなどの必要性と、行く行くは降圧剤の服用を止めることを視野にするように患者にお話しすべきであろう。
<次号までの宿題>
 恒例により、読者諸兄の頭の体操のために宿題を出します。宜しくご賢察の程お願いします。
 コレステロールは確かに多すぎると問題であるが、身体に必要な物質であり、少ないよりむしろ多い方が癌の発症や感染症を予防して健康で長寿であるという結果が出ている。血圧も全身の血液を送るために一定水準を維持しているのであるから強制的に下げる(薬を使う)と問題なしとは言えない。では、身体にあまり必要が無く、飢餓状態になった時のために身体にエネルギーを貯めているだけの働きと思える中性脂肪はどうであろうか。中性脂肪は多い方が長生き(死亡リスクが少ない)か、少ない方が長生きか、どちらだと思いますか?  

<引用文献>
1)NPOJIP編集部編「新薬承認のからくり」薬のチェックは命のチェックNo.3「高血圧」 医薬ビジランスセンター 2001cancer31fig1-table1

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