症例から学ぶ悪性疾患の鑑別法-その32

症例から学ぶ悪性疾患の鑑別法-その32
・・・・キーワード11「癌の可能性が高い。貴方ならどうする?-16」・・・・
                   東京衛生学園臨床教育専攻科講師 小川 卓良

 この数号でコレステロールと免疫力・癌の発症の問題を取り上げ、前号では血圧を下げることの意味及び癌の発症が多くなることを示した。今号では中性脂肪などについて考えてみたい。
<中性脂肪は多い方が良い?>
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<前号での宿題>
 コレステロールは確かに多すぎると問題であるが、身体に必要な物質であり、少ないよりむしろ多い方が癌の発症や感染症を予防して健康で長寿であるという結果が出ている。血圧も全身の血液を送るために一定水準を維持しているのであるから強制的に下げる(薬を使う)と問題なしとは言えない。では、身体にあまり必要が無く、飢餓状態になった時のために身体にエネルギーを貯めているだけの働きと思える中性脂肪はどうであろうか。中性脂肪は多い方が長生き(死亡リスクが少ない)か、少ない方が長生きか、どちらだと思いますか?  
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 私は、以前健診で中性脂肪が210mg/dlを超えたことがあった。体重は63kgくらいでBMIは21.5で理想的であった。ただし、私の成人してからの体重は最重が67kg、最軽が50kgで、元々痩せ形なので、見た目と自分の実感ではやや太めである。担当の医師が中性脂肪を下げるように指導していただいたので、それから週に4~5回1時間の早歩きを行った。1年後の健診で中性脂肪は80mg/dlまで下がったが、何と体重は3kg増加し人生最重量に近くなってしまった。確かに歩行によって代謝が良くなったのであるが、食欲が亢進して食べ過ぎたのが原因である。しかし、歩いているために中性脂肪は増加しなかったし、コレステロールも160前後で高くなかった。そこで自己流ダイエット(満腹感を得るために野菜を大量に取り、そして大豆蛋白:納豆・豆腐・おから及び魚を中心として糖質・脂肪分は少しにする)を行うと同時に、歩いているだけでは体重は減らなかったので、ランニングを始めた。最初の3~4ヶ月は、月に100km~200kmのランニングであったが徐々に増やして月に300kmくらい走るようになり50歳を過ぎてフルマラソンも経験した。食事の制限は体重が7kg減ったこともあり3ヶ月で止めて、以後は今まで通りにした。ところが次年度の健診では中性脂肪が40mg/dlまで下がり、担当の医師に怒られてしまったが、この時に「この飽食の時代に身体に脂肪を蓄えておく必要性は無いと思うのですが、何故中性脂肪が低いと身体に行けないのですか?」と医師に質問しても中性脂肪の標準値(正常値?)より低いから良くない、の一点張りで全く納得がいかなかった。ただ、見た目には生気が乏しく「小川は癌で先は短い」と陰口をきかれていたということを後で知った程であった。ただ、この時でさえ体脂肪率は10%程度であり、BMIも20前後であったので、医学の定義上では「痩せ」ではなかったのである。
 さて、本題に戻る。1993年から2001年までの9年間における山形県内の2つの町の住民を対象とした基本健康診査(受信した実人数は6466人)のデータを分析した研究がある1)。検査項目は、BMI、赤血球数、血色素、総コレステロール、中性脂肪、尿酸、空腹時血糖、動脈硬化指数{(総コレステロール-HDLコレステロール)÷HDLコレステロール}の8項目、問診項目として喫煙習慣、飲酒習慣、既往歴(心臓病、眼底出血、高血圧、脳卒中、がん、腎臓病、肝臓病、貧血、高脂血症、糖尿病の有無)の4項目、家族歴としてがん、脳卒中、高血圧、心臓病、糖尿病の有無の5項目であった。これを2000年1月1日現在のがん罹患及び2002年11月30日現在の全死因死亡を追跡した研究である。
<中性脂肪が多い方が長生き!?そして高血圧治療が死亡率を上昇させている!>
 この結果が非常に興味のあるものであった。まず、男性で死亡リスクが有意に高かったのは、BMI18.5未満の痩せと空腹時血糖値が126mg/dl以上であり、死亡リスクを有意に減少させたのは、中性脂肪が150mg/dl以上であったのである。女性では有意な項目がなかったということである。既往歴との関連では、男女ともに高血圧治療中が有意に死亡リスクを高めていたのである。血圧は検査項目になかったので、血圧との関連は判らないが、既往歴の高血圧と死亡リスクの関連はなく、高血圧治療中が問題であるというのは前号でのデータと全く一致する。BMI18.5未満の痩せと空腹時血糖値が126mg/dl以上の死亡率が高いのは他の多くの研究でも裏付けられているので、目新しいことではないが、中性脂肪と高血圧治療の件は目新しい。
 また、がん罹患(大腸癌、胃癌、肺癌、乳癌)との関係では男女ともに大腸癌の罹患リスクを高める項目が有意になり、他のがんとの関連は見つからなかった。男性では血色素18g/dlを超える者、中性脂肪150mg/dl以上、心臓病の治療中が大腸癌の罹患リスクを高めており、女性では赤血球数450(104/mm3)を超えた場合、総コレステロールが220mg/dl以上、中性脂肪150mg/dl以上、動脈硬化指数4.5以上の場合に大腸がんの罹患リスクを有意に高めていた。
 中性脂肪は総死亡に対しては高い方が良いという結果になっているが、大腸癌に関しては、男女ともにリスクを高めている。脂肪食と大腸癌の関係は以前よりいわれていることなので、当然といえば当然である。また、男女ともに血が濃い人は大腸癌になりやすい、ということであるが、赤血球や鉄分が多くなるのは肉食の傾向が強いということでもあるので、脂っこいもの肉が大好きな人は大腸癌になりやすい、というのはもはや当たり前の事実ということになるが、この研究ではないが野菜を多くとっても大腸癌のリスクを減らせないということも一昨年新聞報道されびっくりさせられたのは記憶に新しい。
 そして注目すべきは、男性での心臓病の治療中が罹患リスクを高めているということである。心臓病の治療は色々あるが、服薬ではスタチン剤などのコレステロール低下剤の服用である。脂っこいものを沢山食べて、総コレステロールを高めると大腸癌になりやすい(女性では有意)が、コレステロール低下剤を服用して、コレステロールを薬で下げても大腸癌になりやすいということである。
 ただ、この研究では症例数が充分でないことと、基本健康診査受診者ということで高度な異常者は入院しているか、通院しておりこの健診を受診してない可能性が有るので確定的なことは言えない。そのためか、肺癌と喫煙習慣が有意に出てないという奇異な結果もある。またこの研究では個人情報保護法案施行以前の研究であるために、個々の対象者の同意を得ることなく情報管理者である各町の健康福祉課長にたいして、研究も目的とプライバシー保護を明記した文書を提出して承認を得るだけで良かったということで、貴重性もある。今後このような研究がこのような形で簡単にできるかどうかは不明である。
<太めの方が健康で長生き?>
 さて、中性脂肪が多いといってもこの研究では男性で平均124.3mg/dl±標準偏差106.0mg/dlでばらつきは非常に大きいが150mg/dl以上は23.6%にあたり、極端に多いわけではない。ちなみに女性は平均110.3mg/dl±標準偏差64.8mg/dlで150mg/dl以上は18.2%である
 図1は体重と死亡率の関係を示したものである。これを見ると男性は平均体重よりも20%も痩せている方が最も死亡率が低く、体重が増えるごとに死亡率が高まり、女性は10%減が最も長寿ということである。これは保険協会の統計ということで対象となった数は膨大(数百万から数千万)であるから確実性が非常に高い、ということが言える。やはり、肥満は悪であり、寿命を縮めるということなのであろうか。
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以前、プライマリィ・ケア学会において詳細は失念したが、武蔵野市医師会と三鷹市医師会で所属の開業医師のところに来院する患者さん(健診の人もいるので健康人も多く含まれる)を10数年追跡したデータが報告された。それによると、「小太り」が最も健康で有病率が低いということであった。図1のデータと全く違う結果なので、この報告は25年ほど前の話であり、ベースライン(研究を始めた時点)はその10数年前であるから今から40年ほど前ということで、昭和42年頃であるから、その時点の標準体重は今より少ないのではないかとか、ベースライン時の10数年若い時は小太りが良く、年齢がいけば少し痩せる方が良いのではないかというように私は解釈していた。
 ところが、首都大学東京の都市システム科学研究科星旦二教授に全日本鍼灸学会東京地方会、関東甲信越支部等でヘルスプロモーションをテーマに3回ほど講演をしていただいたが、何れの講演においても「小太り」が健康で長生きであるとデータを示してお話しされた。講演後に小太りの定義や「小太りはあくまでもベースラインでの話ですよね」というよな質問をするのであるが、小太りはBMI23~25程度のことで、ベースラインでの話ではなく、その後も継続している状態とのことであった。さすがにデータを下さいというわけには行かないので探してみると、図2~図6を見つけた2)。
 図2は、日本の生命保険会社の調査で体重と死亡の関係を見たものである。横軸は肥満指数で0は平均体重±平均体重の5%、10の人は平均体重+平均体重の10%±平均体重の5%ということで、例えばある身長の平均体重が50kgとすると、47.5kg~52.5kg未満の人は0、52.5kg~57.5kg未満の人が10という具合である。縦軸は死亡指数というもので、生命保険協会による性別・年齢別死亡率を基準とした実死亡率の割合で100が平均値となる。例えば死亡指数が120ならば平均より20%死亡率が高いという意味である。
この研究によると、男性の場合は肥満指数が-25~+15まで、BMIでいうと16.5~25.3迄が死亡指数が平均か平均以下で肥満指数+15~+35(BMI25.3~29.7)の人の死亡指数は+5%でそれほどではない。また、女性の方は肥満指数-5~+25(BMI20.9~27.5)の人の死亡指数は--10%近くまでも平均より少なくなっている(塚本宏、日本保険医学会誌83、1985)。
 図3は住友生命の500万件のデータを分析したもので、男性の場合BMIが21~27程度はほとんど差が無く、女性の場合は極端な肥満か痩せでない限り(BMIで18~28程度)ほとんど問題ないという結果が出ている(横山哲、日本保険医学会誌95、1997)。図4は日本生命の約900万件のデータを解析したもので女性の場合はきれいにBMI17.1~26迄の平均体重近辺が最も死亡指数が低く、それより減っても、増えても死亡率が高くなるという結果が出ているが、男性の場合にはむしろ体重が高い方(BMIが26.1~28)が最も死亡率が低いという結果になっている(立川浩他、日本保険医学会誌91、1993)。
 図5は有名な福岡県久山町での追跡調査(40歳以上の約2000人を13年間追跡)では、男性はBMI23~27が最も死亡率が低く、女性は23~25が最も低いという結果であった(清原裕他、肥満研究4(1)臨時増刊号、1998)。
 それぞれの研究で細部は微妙に異なっているが、何れも平均体重から小太りまでは問題ないという結果になっている。
 では図1をどう考えたらよいのであろう。米国は戦争に負けたわけでもなく1959年(昭和34年)以前においても栄養状態に問題はあるわけではないと思われるので人種や環境の差かなとも考えられるが、図6は2005年に報告された最新のデータでBMIが18.5~29程度まではほとんど死亡率が変わらなく、むしろ25~29.9が最も死亡率が少ないという結果になっている(Flegal他、JAMA293、2005)。この違いは何か、体重の分布が違うのかと思ったら、米国ではBMI30以上の人の割合が1960年代では13%、1970年代では15%、1990年頃には23%、2000年には30%を超えたというように、確かに分布は違っているけれども、予想の逆に現在肥満者が増えているのである。一つだけ、思い当たることがあるがそれは次号までのお楽しみということにさせていただく。
<次号までの宿題>
 恒例により、読者諸兄の頭の体操のために宿題を出します。宜しくご賢察の程お願いします。
 沖縄26ショックというのがある。以前都道府県別寿命で日本一であったのは東京都であった。当時世界中から疫学などの専門家が来日して何故東京都が日本一、当然当時は世界一長寿な理由を探ったのであったが、その結論は「通勤地獄」であった。適度のストレス・運動ということらしい。その後沖縄県が東京都を抜いて長寿日本一に君臨したことがある。豚がよいとか、ゴウヤが健康によいとか色々いわれた時期であった。しかし、長寿1位から3位程度にあった沖縄県が突然26位に下がったのである。このことを沖縄26ショックという。この理由をご賢察していただきたい。
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<引用文献>
1)後藤順子他「基本健康診査受診者のがん罹患と生命予後に関する研究」厚生の指標 第53巻2号 2006/2
2)浜六郎「ちょっと太めが元気で長生き」薬のチェックは命のチェックNo.24 NPOJIP 2006/10

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