症例から学ぶ悪性疾患の鑑別法-その35

症例から学ぶ悪性疾患の鑑別法-その35
・・・・キーワード11「癌の可能性が高い。貴方ならどうする?-19」・・・・
                   東京衛生学園臨床教育専攻科講師 小川 卓良

 前号では、沖縄26ショックの原因が食事の欧風化であるとは言えず、他に原因があるのではないか、というように検討してきた。前号での宿題でもあるが、では沖縄26ショックの主たる原因は何であろうか?
<百歳以上の長寿者>
 百歳以上の長寿者の人口10万人あたりの数は、平成15年には全国平均で16.13人で平成16年には18.05人とドンドン上昇している。沖縄県は人口10万人あたりの百歳以上長寿者の数が全国一で、平成15年には42.49人、平成16年は47.07人、平成18年には54.37人となった。沖縄26ショックの平成12年以後も上昇して昭和58年以後24年以上も連続1位である。平成18年の2位は高知県で51.88人、3位は島根県で51.08人と続き、以下、鹿児島県、熊本県、山口県、佐賀県、愛媛県、岡山県、宮崎県と続き、近畿地方以東の県はトップ10には全く登場しない。
 百歳以上の長寿者が少ないのは平成16年時点で埼玉県の8.54人、次が青森県、千葉県、茨城県、愛知県と続き青森県を除いて全て3大都市圏である。青森県は元々平均寿命が最下位周辺にいるので、長寿者が少ないことは容易に推測できる。
 ただ、人口あたりの数を見る時に、分子の数は確かに長寿者の数であるが、分母は人口なので、若い人が比較的多い3大都市圏の長寿者の比率は少ないことは推定できる。
<高齢化率>
 65歳以上の高齢者が人口に占める比率を高齢化率というが、平成15年には全国平均で19.0%、平成16年には19.5%に上昇している。このままで推移すると平成27年(2015年)には26.0%、2050年は35.7%に達すると見込まれていることは衆知の通りである。しかし、以前、今から20数年前に当時の厚生省のキャリアや厚生族の議員との勉強会(含む宴会)では最大23%程度の数字が示されていたことを考えると、日本人の寿命の延びと分母の一端を形成する若人の割合の減少(少子化)は如何に深刻かが判る。
 この高齢化率を都道府県別に見てみると、2004年時点で最も高いのが島根県の26.7%、次が秋田県26.1%、以下高知県25.3%、山形県24.9%、山口県と鹿児島県24.3%と、いわゆる若人が都会に浸出したための過疎化が起きている地域に多い。逆に高齢化率が低いのは3大都市圏で最も低いのが埼玉県で15.5%で、首都圏では神奈川16.2%で3位、千葉が16.8%で5位、東京は18.0%で8位である。他の大都市圏では愛知県は16.6%で4位、滋賀と大阪は17.5%で共に6位である。その他、大都市及びその周辺地域である、宮城、茨城、栃木、奈良、兵庫、福岡等の高齢化率は低い。これらは大都市集中、田舎の過疎化で説明が付く。しかし、高齢化率2番目に低いのは沖縄県で16.1%である。
 百歳以上の長寿者が人口比率で最も多い沖縄県の高齢化率が日本で2番目に低いというのはどういう理由であろうか。
<出生率>
 一人の女性が生涯で産む子供の数を合計特殊出生率(一般に出生率と呼んでいる)と呼ぶが、これが最も低いのは東京都で2005年には1.0人である。女性一人あたり2人生まないと人口は減る一方であるが2005年の全国平均は1.26人で2000年では1.36人なので少子化は益々進んでいて当然高齢化率も増加の一途である。2番目に低いのが北海道で1.15人、以下京都府、奈良、神奈川、大阪、埼玉、千葉と続き北海道を除けば、出生率が低いのは高齢化率も高い三大都市圏である。この出生率が一番高いのが沖縄県である。沖縄県は2005年で1.72人あり、二番目に出生率が高い福井・島根両県の1.50人より遥かに高い。次に高いのは福島・鹿児島県の1.49人、佐賀・宮崎県が1.48人、鳥取県1.47人と続き、沖縄県は突出して出生率が高い。出生率の高低に影響を与える因子は沢山あるけれども、家族のサポートが有るか無いか、いうなれば核家族化が進んでいるかどうかの影響は大きく、沖縄県に散在する島々では今でも大家族家庭が多いということなので、その影響はあると思われる。尤も、私的教育費(塾や家庭教師及び私学などの)と出生率は相関しているというデータもある(http://www2.ttcn.ne.jp/~honkawa/1570.html)。
<沖縄県の場合は>
 このように、沖縄県は出生率が一番高く、高齢化率も2番目に低いが、百歳以上の御長寿の人口比率も最も多いという結果がでている。高齢化率が低いというのは若人が多く、高齢者が少ないことを意味するが、百歳以上の超高齢者は一番多いという。若人が多いのは、出生率が高いことと成人になってからの県外移住が少ないことを意味している。
 表1は2005年のブロック別人口の移動をみたものである。三大都市圏は出生地よりも現在の居住地が多くなっており(転入してきた人口が多い)、北海道を除いて大都市圏以外は現在の居住地の人口の方が出生地よりも少なくなっている(転出した人口が多い)。
九州沖縄ブロックも同様である。表2は平成12年の国勢調査より、代表的な県別の15歳以上の就業者の中から5年前の常住地、現在の居住地、その県への転入と転出を示したものである。5年前の常住地と現在の居住地との差は、その県への転入・転出の差と県内での移動及び死亡・退職などが含まれる。
 九州・沖縄ブロックでは出生地よりも最終学歴時での居住地にいる割合が少なく、また最終学歴時の居住率よりも現在の居住率の方が少ないということであり、大学や専門学校は沖縄県外で学んだり、最終学校は県内でも就職先は県外に就職するという率が高いことを意味している。
 沖縄県は同じ九州ブロックの宮崎・鹿児島・熊本県などと5年前の常住地・現在の居住地・転入・転出の割合などに大きな差はなく(転入よりも転出の方が多い)、東北の青森県も同様である。ただ、福岡県は転入の方が転出より若干多い。東京をはじめとする首都圏は転出よりも転入の方が圧倒的に多いが、大阪府は大都市圏であるのに関わらず転出の方が多く、トヨタ景気に沸く愛知県が転出よりも転入が圧倒的に多いこともあり、地域の景気の動向と関係がありそうである。
 沖縄県では人口の移動において、県内への転入よりも県外への転出の方が多く、就学や就職を県外で行うことが多いということで若人の県外転出は南九州の県と差がないことが判る。
<沖縄26ショック>
 沖縄県は出生率が高く、若人の県外流出は多いが特別ではない。そして、高齢化率は非常に低いが、百歳以上の人口比率は一番高いという県である。この結果の論理的帰結は超高齢者ではなく普通の高齢者が少ない、すなわち比較的人口比率の高いはずの年齢層が少ないからではないかとか考えられる。
 図1は、14歳未満、15~64歳、65歳以上の各都道府県別人口比率を示したものである。転出がほとんど無い14歳未満の人口比率は、出生率が高いことから他に比して圧倒的に沖縄県は高い。また、65歳以上の高齢者比率も当然低い。図2は55歳~74歳及び85歳以上の人口比率を示したものである。沖縄県は圧倒的に55歳~74歳までの人口が少なく、85歳以上になると全国平均とそう変わらなくなり、大都市圏よりも比率が多いことが判る。沖縄県では何故この年代だけが少ないのであろうか。そして、沖縄26ショックの真の原因は何であろうか。
 沖縄26ショックが判明した2000年は戦後55年経過した年であり、2005年というと丁度60年経過した年である。2005年に55歳~75歳という年齢はまだ生まれてないか、戦後の年に15歳迄であった人達である。
 病気になる、または病気を治すに最も影響を与える因子は、生活習慣で約50%であると前々回のこのシリーズ33で述べた。ある年代に特有な現象であるならば、他の因子の保健・医療(10%)、遺伝(20%)、環境(20%)の影響は全年代に関係するのでほぼ無視できる。ある年代に特有な現象は、あくまでも生活習慣の違いによって起きたと考えられるし、確かに日本人は欧米人よりもインスリン分泌能が半分であるにしても、食事の欧風化が原因であるとは欧州に国々の寿命が長いこともあってそれだけが原因とは考えられない。そして、欧風化よりも食事の米国化が問題であると前回述べた。
 食事の米国化というと一番にあげられるのは、ジャンクフードともいわれるファーストフードである。その代表的存在が世界一のハンバーガーチェーンであるマクドナルド、通称マックである。マクドナルドは米国においては1940年にできた。日本では日本マクドナルドによって1971年にできたのが最初であるが、沖縄ではその数年前に既にマックができている。
 また、もう一つの代表的なファーストフードは、ケンタッキーフライドチキン(現在KFC)である。KFCは米国では1939年にできているが、日本では1970年に1号店ができている。そして、日本においてケンタッキーフライドチキンの県民あたりの消費量が多いのはダントツで沖縄県である。
 ジャンクフード(junk food)は、カロリーは高いが他の栄養価・栄養素の低い食べ物を意味し、前々回図に示したように沖縄県は肥満者の割合が全国一に高い理由の一つとしてこのジャンクフードの影響は無視できない。
 敗戦国日本で唯一戦場となった沖縄に駐留してきた米軍。当時の子供達にとって米軍は食料をくれる救世主であり、非常に格好良い存在であったことは容易に想像できる。身体が大きくいかにも健康そうな米軍兵士が食べているハンバーガーやフライドチキンは憧れの存在であったろうし、自分たちも食べられることができた時には争って食べたのに違いないと思われる。その少年時の習慣がそのまま大人になっても続き、何ら疑問を持たないで食べ続けたことも納得できる。そして当時の米国は前回示したように、平均寿命が世界一の国であったから、ファーストフードを食べることは寿命を延ばすことと思ってもやむを得ない。また、昭和40年頃までは太ることは健康の証でもあったのでもある。
 また、マクドナルドやKFCのホームページを見ると、食材の問題や調理方法、栄養バランスなど情報を公開し、安全性等を強調しており、見る限りにおいては全く問題が無さそうである。しかしながら、沖縄26ショックを分析する限りにおいて沖縄県の人口構成で55歳から75歳という年代が他の年代に比して異常に少ない事実と本土よりも早く普及したファーストフード、そして、それを好んで食した年代という相関関係は無視できず何らかの関係があるといわざるを得ない。
 ジャンクフードは、少量でもカロリーが高い食品であるので太りやすいのは事実であるが、クッキー、ドーナツ、ポテトチップスやフライドポテトのようにサクサクとした食感があり、後を引く食品でもあるのでつい食べ過ぎてしまう傾向にある。ジャンクフードの栄養価・栄養素が低いという意味は、蛋白質やビタミン・ミネラルなどの含有量及びバランスが悪いことを意味し、カロリーが高いのは脂肪分が多いことを意味している。
 ただ、単純に脂肪分が多いというと日本全体でも脂肪摂取量は増えており、50年前と比して日本人の摂取カロリー量はそれほど増えていないが脂肪摂取量は4倍に増えている事実があって、これは何も沖縄に限ったことではない。確かに食事の欧風化は日本全体で進んでいるのは事実であるが、それでも平均寿命は伸び続けてきた。
<飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸>
 問題は脂肪の中身である。脂肪は種々のアルコール類と脂肪酸のエステルであるが、その脂肪酸には大別して飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸がある。飽和脂肪酸は牛や豚・羊などの家畜類の脂肪に含まれているもので、飽和状態ということは還元力がなく、抗酸化作用がないことを意味している。よって、活性酸素を取り除くことができず、動脈硬化を促進させるといわれている。不飽和脂肪酸には不飽和な二重結合ないし三重結合の数によって色々分類されるが、不飽和結合が多い方が抗酸化力が強いとされ、健康によいと考えられている。不飽和脂肪酸は植物油に含まれているが、不飽和結合が5・6個もある有名なDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)は魚、特に鰯や鰺などの青魚に多く含まれる。鰯や鰺などの青魚が動脈硬化・心筋梗塞や癌の予防によいといわれる所以である。
 植物油は、不飽和脂肪酸故に動物油よりも良いといわれ一時ブームとなった。例えば、バターよりもマーガリンというわけで、バターは体に悪くマーガリンは良いという考えであった。植物油は不飽和脂肪酸を含んでいるために常温では液体であるために液体ではバターの変わりになりにくい。そこで不飽和結合に水素をくっつけて(水素化)固体にする作業を行う(硬化)のである。
<トランス脂肪酸>
 この過程で生じるのがトランス脂肪酸である。トランス脂肪酸は種々あるが、通常の脂肪酸のシス型と違う構造をもっているものである。この違う構造故に、身体の中では消化分解されにくく、抗酸化力もないために動脈硬化を促進し、心疾患リスクを増加するといわれている。
 トランス脂肪酸が問題になったのは、1990年頃オランダでトランス脂肪酸を摂取したヒトのLDLコレステロールが増加し、HDLコレステロールが減少したという研究が発表されてからである。詳細については次号で述べるが、ジャンクフードはトランス脂肪酸だらけなのである。例えば、ハンバーガーを考えるとその牛肉に含まれる牛脂には自然にトランス脂肪酸が含まれ、パンにも含まれるし、フライドポテトの油、塗ってあるマーガリン、デザートのアイスクリ-ムやチョコレート、コーヒーを飲めばそれに入れるコーヒーフレッシュ等ほとんどの商品に含まれている。また、通常の液体である植物油にも精製過程でトランス脂肪酸が生成されるので、液体の植物油だからといってトランス脂肪酸が含まれないということではないし、より加工して環境に優しく油の量が半分ですむというEという油などはかなりトランス脂肪酸が含有されており、環境には優しくても身体にはきつい、というものもある。
 何れにしても沖縄26ショックの主たる原因の一つにジャンクフード及びトランス脂肪酸が関わっていることだけは確かだと思われる。米国においてはマクドナルドを初めとしてハンバーガー各社、KFC、スターバックス、ドーナツ会社等、ほとんどのファーストフード会社では、2008年までに全ての商品からトランス脂肪酸の含有を0にすると宣言している。ただし、米国内だけであって日本ではほとんどその流れはない。
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<次号までの宿題>
 恒例により、次号までに読者各位の頭の体操のために宿題をお出ししますので、読者諸兄のご賢察をお願いします。
1、日本と米国の平均寿命の差は男女併せて4歳の違いがある。この4歳の違いをどう評価するかであるが、もし日本で癌を征圧することができたら何歳くらい平均寿命が延びると思いますか?それによって日米の差、すなわち日米の生活習慣の差の違い・評価が判ると思いませんか?もちろんジャンクフードの問題も当然絡んできてます。
2、現在、欧米男性のがん罹患率の第1位は(A)癌である。死亡率での第1位は(B)癌でA癌は第2位となっている。しかしながら、A癌は日本では欧米の数分の一の罹患率及び死亡率しかない。しかしながら近年は日本においてもA癌の罹患率が急上昇してきた。その原因は大きく2つに分けられる。一つは食事の(C)で、(D)の摂取が増加したためと考えられている。もう一つは特に東アジアでA癌の罹患率が低いことから(E)蛋白及び(F)と(G)の摂取量と関係することが判ってきている。日本人が欧米に移住すると一世、二世となるにつれA癌の罹患率は高まることからそのことが確かめられている。しかしながら最近の研究では単にE蛋白の摂取だけでなく腸内細菌の違いによってE蛋白が腸内細菌によって代謝される度合いにより違うことが判ってきた。そうすると食事のCでDの摂取量が多いだけでなくFの摂取量はともかく(H)の摂取量の違いも関係することが判ってきている。E蛋白の摂取を除けば、何れも米国癌協会の癌にならない14箇条(+禁煙)に全て書かれていることである。

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