- セルフメディケーション税制(医療費控除の特例)の概要、目的1)とは
この制度は2017年1月から開始され、健康維持に一定の取組みを行う個人が、薬局等から一定の医薬品を購入した費用を所得金額から控除することで、自主服薬(セルフメディケーション)を普及させようとするものである。
制度の目的は、高齢化社会を迎えて健康寿命延伸が重要となるので、その実現に向けてセルフメディケーションを推進させて、自己健康管理に必要な健康増進・予防や生活支援を担う市場・産業を創出・育成することである。
- セルフメディケーション税制(医療費控除の特例)の具体的な対策と制度1)について
健康維持に個人が行う一定の取組みとは、特定健診診査(内臓脂肪の蓄積に起因する高血圧症、脂質異常症、糖尿病等の生活習慣病で40歳~74歳迄が対象)、予防接種、定期健康診断、健康診査、がん検診などを受けることである。
特例期間は2019年1月1日~2021年12月31日迄で、医薬品の購入は対象となる個人だけでなく、生計を一にする配偶者その他の親族まで含む。
税制控除の一定の医薬品とは、スイッチOTC医薬品(要指導医薬品及び一般用医薬品のうち、医療用から転用された薬局・薬店・ドラッグストア等で処方箋なしに購入できる医薬品)で、その成分数は86に及び、その例として風邪薬、胃腸薬、鼻炎用内服薬、水虫・たむし用薬、肩こり・腰痛・関節痛の貼付薬等である。
控除の金額は、申告する年に支払った合計額が1万2千円を超えるときは、その超える部分の金額(その金額が8万8千円を超える場合には8万8千円)で、その金額がその年分の総所得金額等から控除できる。
通常の医療費控除は10万円を超える部分の医療費(鍼灸治療費や通院交通費も含まれる)が所得金額から控除される(最高200万円まで)のに対して、セルフメディケーション税制では1万2千円以上であることが大きな違いで、少額でも控除が受けられることにメリットがある。ただし、セルフメディケーション税制を使うと通常の医療費控除は受けられないので、高額の医療費を使った場合には通常の医療費控除の方が良い。
一方、処方箋を必要としない(医師の診断を経ない)セルフメディケーションが普及すれば、当然薬局・薬店等での薬剤師・栄養管理士等の販売員の資質が重要になる。薬剤の薬効や副作用等の知識はもちろん、消費者の症状やその背景(年齢・居住地・BMIなどの消費者の属性や食生活、健診結果、運動状況等)を理解して薬品を選択(売らないことも含めて)する能力及び健康指導する能力が求められることになる2,3)。
また、税制の優遇処置を国民全体に公平にするために、僻地住民や高齢者、病人等の買物弱者に対する対応も求められる2,3)。
- セルフメディケーション税制(医療費控除の特例)の概念とあん摩マッサージ指圧、はり・きゅう師の役割についての私見
この制度は、一言で言えば「健康寿命延伸」を最大の目的としているので、それには鍼灸師・鍼灸治療も大いに貢献できると思われ、地域包括ケアシステムにおいての連携を深めていくことが求められる。
また、鍼灸治療の医療面接において、従前は医師から処方された薬について問うことが一般的であったが、スイッチOTCが普及すれば、薬局・薬店から購入した薬への質問も必要となってくると思われる。
反対に、薬を併用した方が良いと思われる場合、従前は医療機関への受診を勧めていたが、今後はアクセスも良く、待ち時間のない薬局・薬店で相談することも選択肢に入れる必要があるだろう。
一つ大きな問題は、この制度は従前からある医療費控除と併用ができないことである。鍼灸治療費は医療費控除の対象となっているため、定期的或いは頻回の鍼灸治療を受療している患者については、医療費控除の方が良いので、この制度は活用できない。
(2019年記)
【参考文献】
1) 厚生労働省:セルフメディケーション税制(特定の医薬品購入額の所得控除制度)について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000124853.html
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