体幹部の兪穴・募穴、四肢の五要穴による反応の神経性機序を
体性−自律神経反射における中枢の違いから説明する
生体に加えられた刺激は感覚として意識される他、情動や行動を起こしたり、免疫系や内分泌系に影響を及ぼしたり、様々な反射を引き起こしたりする。このとき、皮膚・粘膜・筋・腱・関節に刺激が加えられて生じる感覚を体性感覚といい、それにより自律神経遠心路の活動が変化し、その結果、効果器の機能が反射性に調節されることを体性-自律神経反射という。体温調節反射、射乳反射、射精反射などは皮膚の体性感覚刺激により起こる体性-内臓反射といえる。また、特殊感覚刺激も広義には体性感覚に含める場合があり、瞳孔の対光反射や唾液分泌反射なども、体性-自律神経反射に含めることができる。
近年、この体性-自律神経反射には新しい考え方が提示されており、それは脊髄を中枢とする脊髄反射と、脊髄より上位を中枢とする上脊髄反射の2つがあるとするものである。
体表に刺激を受け体性求心性線維の情報が脊髄に入力すると、一方では上行し脊髄より上位の中枢に伝えられ感覚として意識される他、情動や行動を起こしたりする。その傍らで、状況に応じた広汎な全身性の自律神経反射が引き起こされる。これが上脊髄反射である。
もう一方で、入力した脊髄分節に自律神経節前ニューロンが存在する場合、脊髄分節内で節前ニューロンにシナプス結合し、その自律神経遠心性線維が支配する器官が反射性に調節される。これが脊髄反射である。
尚、ヒトの交感神経節前ニューロンはT1~L2、副交感神経節前ニューロンはS2~S4に存在するので、体幹部への刺激ではいずれの反射も起こるが、四肢からの体性求心性線維が入力する頚膨大部・腰膨大部には自律神経節前ニューロンが存在しないため、四肢への刺激では上脊髄反射のみが起こる。
更に、脊髄反射は常に上位からの抑制を受けており、その抑制の強さは臓器・器官により異なる。また、刺激が侵害性か非侵害性か、つまり刺激を伝えた体性求心性線維の種類により異なる反応を示す。ただし、筋紡錘や腱器官からの情報も体性求心性線維で伝えられるものではあるが、自律神経機能にはほとんど影響を及ぼさないと考えられている。
さて、兪穴・募穴・要穴への刺激に対する神経性機序を上記の理論で説明すると、体幹部にある兪穴・募穴への刺激では脊髄反射・上脊髄反射のいずれもが惹起され、手足に存在する要穴では上脊髄反射のみが惹起されると言える。
経絡治療の本治では、脈診により決定される要穴を使う。風邪のひき始めの場合、要穴に刺鍼すると、患者が発熱し始めることがある。発熱のような全身性反応を起こすのが上脊髄反射だと考えれば、手足のツボが要穴として重要視されてきた理由が理解できる。また、下痢止めとして臍を囲む下脘・石門・天枢の4穴がよく使われる。これも体幹部の刺激では脊髄反射が優位に起こり、胃・腸管運動が抑制されるとする上記理論で説明でき、このような経験的に行われてきた治療の理屈に合致する。
(2019年記)
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