学会

眼精疲労に対する鍼治療の効果についての概説

 眼科領域の鍼治療では、視力改善効果1-5)、調節機能改善効果2,6)、眼精疲労軽減効果6,7)などの臨床効果の他、瞳孔反応上昇8)、縮瞳8)、眼底局所血流増加9-12)などの効果が報告されている。眼精疲労に対する鍼治療の効果についての報告は多くないが、以下のようなものがあった。
 鈴木らはVDT作業者の肩こりに対して天柱、風池、完骨、肩井、肩外兪、膏肓などに鍼治療を行い、首肩凝りが軽減すると共に眼精疲労も改善したと報告している13)。森崎らは鍼治療の作用機序として、眼周囲や頚肩部、四肢の経穴への鍼刺激により自律神経調節の反応が生じ、眼窩部の循環改善や眼機能の調節が行われ、眼の疲労感改善をもたらす可能性があり、首肩こりも改善したことから局所の循環状態の正常化や疼痛閾値の上昇が症状の軽減に寄与していると考察している14)。山本らは胃兪、脾兪、腎兪、志室への電気温鍼刺激が眼痛、羞明に有効であったと報告している。またこれは鍼刺激が自律神経系、疼痛抑制系へのアプローチすることで眼精疲労を改善すると考えている点では従来の考え方と同じだが、背部兪穴を刺激部位としたことが新しいとしている15)。中村らは視力改善について鍼治療が有効であり、疲れ目や軽い視力低下の者の方が改善度は大きく、視力の悪い者ほど改善度が低くなる傾向にあり、初期の鍼治療により良好な結果が得られると報告している。更に、眼の調節機能に対して眼窩内に直接刺鍼するものが眼窩外の経穴よりも影響が大きいとしている2)。
 さて、眼精疲労以外の報告については割愛するが、患者に「眼精疲労に鍼灸治療は効果があるか?」と尋ねられたなら、「効果あり」と自信を持って答えて良いだろう。加えて、より説得力を高めるため上記の根拠を持って「鍼刺激では血液循環を促す局所反射が起こるので、眼周囲への刺激により眼窩部の血液循環が良くなり、ピント調節をしている毛様体筋の疲労が回復する。また、眼の血流増加により視細胞の機能や神経伝達が改善される可能性も考えられる。特に眼窩内への刺鍼は内出血のリスクが他部位より高いが、効果は他より高い。その他、頚肩部への鍼刺激は肩こりが改善できるのと同時に眼精疲労も軽減でき、逆に眼周囲への刺激で眼精疲労が改善されるのと同時に肩こりも軽減できる。更に、鍼刺激では自律神経調節の反応も起き、瞳孔反応の向上や涙の分泌が調節されるので、眼精疲労予防も期待できる」などと説明すると良い。

(2019年記)

【参考文献】
1) 内田輝和,川野由倫子,宮崎峯生,阿部晋也,岡真太朗,小坂二度見.近視に対する鍼治療の効果.全日本鍼灸学会雑誌.1985;35(1):42-6.
2) 中村辰三,篠原昭二,岡本敏男,合田光男.眼の調節機能と鍼治療.全日本鍼灸学会雑誌.1983;33(2):138-44.
3) 前田見太郎,清川朝栄,小林章子,西口理恵,矢野忠,大山良樹.視力回復に及ぼす鍼治療の効果.両近視性乱視に対する鍼治療の効果について.全日本鍼灸学会雑誌.1993;43(3):120-4.
4) 大山良樹,佐々木和郎,中村辰三.学童期の近視に対する鍼治療の効果.全日本鍼灸学会雑誌.1997;47(2):49-55.
5) 大山良樹,佐々木和郎,渡辺勝久,北小路博司,石丸圭荘,木下緑ら.眼科疾患の鍼灸療法テクニッ ク-近視に対する鍼灸治療法-.全日本鍼灸学会雑誌.1993;43(1):14-9.
6) 西田章通,中村辰三,安藤文紀.VDT作業による眼精疲労に対する鍼刺激-眼の調節機能低下に及ぼす影響について-.臨床眼科.1998;42(6):712-6
7) 中村辰三.眼精疲労における鍼治療の有効性.医道の日本.2002;第696号(平成14年1月号):128-34.
8) 大山良樹,佐々木和郎,中村辰三.鍼通電刺激が瞳孔の自律神経機能に及ぼす影響.全日本鍼灸学会雑誌.1995;45(4):258-62.
9) 森和彦,河嶋昭彦,片桐ルミ,松本章代,石橋健,新谷明子ら.鍼刺激に対する眼底局所血流動態変化のレーザードップラー眼底血流計を用いた検討.臨床眼科.1997;51(6):1037-40.
10) 成瀬繁太,森和彦,栗原麻奈,中島伸子,松本康宏,木下茂ら.手背部経穴刺激による網脈絡膜微 小循環動態変化.日眼会誌.2000;104:717-23.
11) 大山良樹,森和,佐々木和郎,中村辰三.鍼刺激が眼底局所微小循環系に及ぼす影響.Health Sciences.2002;18(3):224-31.

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