レポート

補完・代替医療における現状と課題 2012.6

 現在、世界の多くの国で正規医療とされている現代西洋医学は、他の技術の進歩に伴って、この数十年で非常に高度化されてきた。例えば、微細な異常まで発見できる検査機器が開発され、臓器・器官のような大きなものだけでなく、細胞や遺伝子レベルの疾患まで診断できるようになり、さらにその治療のための医療機器や薬の開発も行われている。これによって救われる命が増えたであろうから、現代医学の進歩は大変すばらしいことではあるのだが、医療機器は何億もし、薬の研究開発には莫大な費用が投じられることから、医療費は高額にならざるを得ない。また、日本をはじめ先進諸国では人口の老齢化が進みつつあり、高齢者は若年者に比べると様々な疾患を有するものであるから、必然的に医療機関の利用は多い。つまり、医療を頻繁に受ける人が増え、しかもその医療が高額なため、各国では医療にかかる費用の増大が問題となり、近年、医療費削減に取り組む必要が出てきたのである。

 そうした背景の中、生活レベルが高くなった先進国では、人々は生命に係わる疾患だけでなく、日常生活で感じる様々な不快な症状をなくすことを医療に望むようになり、多岐に亘る患者のニーズに対する中で、西洋医学的治療では適切な治療方がない疾患や、思うような効果の獲られない疾患があることが少しずつ明らかとなってきた。さらに患者が訴える症状の中には、寿命が延びたことによって、病気ではなく老化が原因で起きているものや、長きに亘る生活習慣が原因で起きる疾患があることもわかり、これらに対しては病気を治す現代西洋医学より、予防することの方が重要であることもわかってきた。また高齢になるほど有病率は高まり、しかも幾つもの疾患を有していることが多いため、一人の患者が幾つもの病院あるいは同じ病院の複数の科を受診していることが少なくない。このような場合、加算方式で考える西洋医学では疾患の数に応じて治療や薬が増え、それは患者や国の経済的負担が大きくなるばかりでなく、副作用のような新たな愁訴を生み出すこともあり、徐々に西洋医学の欠点や限界が見えるようになってきたのである。

 このようなことが相俟って、米やヨーロッパの国々では補完・代替医療が見直され、積極的に取り入れるべく、国が主導して教育機関を整備したり、免許制度を確立したり、研究に国費を投じたりしている。そして、その研究のひとつとして、国が医療費削減を目的に莫大な費用を投じて現代西洋医学と補完・代替医療を同等に検証し、頭痛・腰痛・膝痛に対しては鍼灸治療が最も有用であるという結果を得た。現在では、その研究結果が反映され、頭痛・腰痛・膝痛治療の第一選択は鍼灸治療とされている。これに対して日本では、古くから漢方や鍼灸といった伝統医療が行われており、ほんの100年ほど前までは伝統医療が正規医療として行われていた歴史から、今でも鍼灸は多くの国民に認知され、米国と違って年収・学歴・年齢を問わず幅広い層の人に利用されており、現代医療を行う医師も個々の判断ではあるが漢方や鍼灸治療を診療に取り入れている人もいる。だが国の政策としては、近年世界で起こっている統合医療の潮流に合わせて、医学部の卒前教育の中で漢方の講義を行うようになり、全てではないが漢方薬を健康保険に適用するようにはなったが、それ以外には医療に補完・代替医療を導入するための取り組みを国が主導して或いは国費を投じて行うようなことはほとんどされていないのが現状である。この原因には、医師・製薬会社・政治家・官僚など、医療に関わる社会の仕組みや政治的な問題もあるだろうし、彼らが目的をどこにおいて活動しているか、その方向性の問題もあるだろうが、それ以前に補完・代替医療が持つ様々な問題が根底にあると思われる。

 補完・代替医療の問題は、科学的根拠に乏しく、施術の効果が証明されたものではないことが一番に挙げられる。また補完・代替医療の中でも、漢方薬の処方や鍼灸・按摩・マッサージ・指圧の施術には国家資格が必要とされているが、それ以外の補完・代替医療については資格や認定が定まっていないこと、それに国家資格が必要とされている按摩・マッサージ・指圧であっても、実際には無資格者が施術を行っている施設が少なくないことが挙げられる。このように施術効果も証明されたものでなければ、実施している施術者が資格を有しているか否かも疑わしく、たとえ資格を有していても、その資格・認定の内容自体も信頼できないといったことは大きな問題であると思われる。さらに多くの医師は、補完・代替医療に関する知識をあまり持ち合わせておらず、また補完・代替医療を是とするか非とするかは個人によってかなり考え方に違いがあり、前述のようなことが要因となって中には補完・代替医療を否定する医師もいる。例えば、患者が自分の症状に対して補完・代替医療を受けるべきか否か迷った時、医師に相談することは少なくないだろう。あるいは国が医療制度を改正しようとする時や診療に関するガイドラインを作成する際には、医師の意見を取り入れることが多いのではなかろうか。その医師に信頼されていない、ともすれば否定されてしまうことは補完・代替医療にとってこれ以上の不利益は無いのではなかろうか。

 代表的な補完・代替医療である鍼灸に携わる身である私は、今後、鍼灸が治療法の選択肢の1つとして医療に取り入れられるようになることを望んでいる。それには、引き続き科学的根拠を蓄積して効果があることを証明していかねばならないだろう。そして、研究で得た結果を広く世間に知らしめて、鍼灸の効果と有用性を知ってもらい、国民の側から鍼灸を望む声が上がることを期待する。だがそれ以上に、医療に鍼灸が取り入れられるには、医師に認められる必要があると思う。そのためには、まずは医師に鍼灸がどのようなものか知ってもらう必要があり、それには病院に鍼灸が取り入れられるようになると良い。そうすれば、必然的に実際に医師が鍼灸を見て、効果を実感することができるだろう。開業鍼灸師の中には、病院で鍼灸が行われることを懸念する声もあると思うが、これは患者の裾野を広げる意味でも良いことだと思う。ただ、病院で鍼灸を行おうとするならば、鍼灸師自身も医師に信頼される人材である必要があるだろう。

 医師が補完・代替医療を否定する要因は、先に述べたことも一因であると思うが、実のところ施術者の資質が、信頼を得られない大きな理由ではないかと考える。今現在、医師・看護師・その他の医療従事者は、現代医学的知識を基にした共通基盤の上で、チームとなり医療を行っている。そこには共通の専門用語があり、専門知識があり、患者の病態の説明にしても、治療方針の説明にしても、いずれも現代医学的な知見から語られる。そこに加わって仕事をしようと思うなら、彼らの会話を理解できるだけの知識を持ち合わせていなければならないだろう。だが、多くの鍼灸師はこのような共通基盤を持っていない。それが信頼を得られない理由のひとつと考える。さらに、鍼灸が医療における一業種としてチーム医療に加わるならば、他業種との違いや鍼灸の専門性・有意性を示すことができなければ、その価値は認められない。それには、例えば論文や科学的根拠となるデータなど、誰もが理解できるもの、理解できる方法を用い、さらに理解できる言葉で説明しなければ納得してもらうことはできないだろう。しかし、未だ解明されていないことの多い鍼灸を説明することは難しい上、人によっては非科学的な論拠や一般常識から逸脱した一個人が考える論理を示したり、一部でしか使われない造語で説明したりすることあり、これらが信頼を失う大きな理由になっているのではないかと考える。

 今後の補完・代替医療の課題は、国家資格・認定を確立することと、それに準じた教育機関を整備することを第一段階として、無資格者・施設を取り締まる法律作りを関係機関に働きかけること。既にそれが整備されている鍼灸では、引き続き研究によって科学的根拠を蓄積していくこと。研究で得た結果を広く知ったもらうための効果的な広報活動を行うこと。そして統合医療によって鍼灸が治療法の選択肢の1つとして医療に取り入れられるようになるには、医師が有用であると認められる根拠を示せるようになること、医師から認められるような人材を育成することが必要である。そのためには今の学校教育では卒業して直ぐに開業できるような鑑別力や技術力にも足りなければ、病院でチーム医療に加われるだけの知識にも足りず、非常に中途半端である。開業・病院勤務のいずれにも、少なくとも看護師をはじめ他の医療従事者が持つだけの現代医学知識は必要だろう。今の鍼灸界を担っておられる先生方が鍼灸四団体を集結して、既に研究や広報活動を推し進めるべく活動し、鍼灸師の資質を高めようと学会の認定制度や生涯研修や卒後研修などに取り組んでおられる。さらに加えて、これからの鍼灸界を考えるならば、優秀な人材確保と教育が何よりも重要だ。今後の課題として、鍼灸師を育成する教育のあり方を根本から見直す必要があるのではないかと考える。また鍼灸師の教育にあたる教員の育成はさらに重要で、資格の取得に一定の学力基準を設けたり、臨床経験を義務付けたりするなどして、優秀な人材が教育にあたるようになって欲しい。少子化と小泉改革以降の鍼灸学校の乱立によって定員割れが起こり、学生獲得に躍起になるのはわかるのだが、鍼灸師や鍼灸教員の育成を担う方たちに、学校経営ではなく、鍼灸の未来に目を向けて、教育を考えていただくことを願ってやまない。

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