院長執筆・講演録

呼吸時の鍼刺入抵抗の変化の解析 要旨

呼吸時の鍼刺入抵抗の変化の解析

要 旨

【目的】鍼の切皮に関しては痛みが起きにくい方法や用具を検討した研究があるが、新人と熟練者で技術差が大きいとされる刺入手技に関する研究はみられない。そこで本研究では、鍼灸の教育機関で指導され、古典にも記載のある、患者の呼吸に合わせて刺入する方法を取り上げ、呼吸運動が鍼刺入時の機械的抵抗に及ぼす影響について調べた。

【方法】7名の被験者を対象に、鼻孔付近の温度変化によって被験者の呼吸状態をモニターしながら腰部の刺入抵抗を測定した。刺入抵抗の測定には特製の鍼刺入抵抗測定器を用いた。本器は鍼を一定の速度で刺入し、そのとき鍼にかかる力をヒズミゲージで検出し電圧として出力するものであり、その値を刺入抵抗とした。次に腰部の刺入抵抗測定中に被験者に呼吸を止めてもらい、呼吸停止前・停止中・呼吸再開後の刺入抵抗の変化を観察した。さらに通常呼吸時の大腿部の刺入抵抗を測定した。加えて呼吸と刺入抵抗の測定中に表面筋電図を用いて腰部の筋活動を測定し、また呼吸を計測しながら針筋電図を用いて腰部の筋活動を測定した。

【結果】呼気と吸気が切り替わるのに同期して腰部の刺入抵抗が変化する現象が見られた。その変化は呼吸停止と同時に消失し、呼吸再開とともに再現した。大腿部では呼吸に同期して刺入抵抗が変化する現象は見られず、刺入深度が深くなるのに比例して刺入抵抗が増していく現象が見られた。このような現象は被験者全員に共通して見られ、再現性もあった。また表面筋電図と針筋電図では、ともに呼吸に同期した腰部の筋活動を捉えることはできなかった。

【考察】呼吸の変化と鍼刺入抵抗の変化には極めて高い相関(r=0.81,p<0.05)があった。さらに刺入抵抗の変化が呼吸停止と同時に消失し、呼吸再開とともに再現したことから、刺入抵抗の変化は呼吸によってもたらされる現象だと考えられる。またこの刺入抵抗の変化は呼吸時に特異的に活動する筋の影響ではないかと考えたが、表面筋電図と針筋電図ともに呼吸に同期した腰部の筋活動を捉えることができなかったことから、筋活動以外の何か別の因子が影響していることが示唆された。

【結論】本研究により呼気時、特に呼気の終了時は、吸気時よりも鍼の刺入がしやすいことを明らかにすることができた。しかし、刺入抵抗を変化させる詳細なメカニズムはまだ不明であり、臨床上重要とされる痛みの生じやすさとの関係解明も併せて、今後の課題としたい。

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