『代替医療のトリック』に答える-7

『代替医療のトリック』に答える-7

                    東京衛生学園臨床教育専攻科講師

                    (社)全日本鍼灸学会 副会長  小川卓良

                    意見提供 明治国際医療大学  川喜田健司

24、西洋医学は強いエビデンスがあるのか

 図10はジャーナリストの山脇岳志氏の書評である。書評にもあるように山脇氏は日本銀行や郵政問題に造詣が深い朝日新聞の論説委員であるが、「効かないと分かってもなぜか自分は鍼治療を止めない」と仰っている。これは本書に「信じている人は読んでもしょうがないからこの本を読まなくて結構です」とも書かれているし、信じている人には強力なプラセボ効果があるとも言っている。

 本書では「通常医学(西洋医学)には強いエビデンスがある」と随所で述べ、だからエビデンスのない代替医療ではなく通常医療を行うべきだという論調である。

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 図11は千葉大学法経学部総合政策学科教授の広井良典氏の書評である。氏は「著者らの主張には一定以上の妥当性がある」が「現代医療論として読む場合、本書の議論にはやや表層的な物足りなさが残る」と述べ、「EBMの考え方は医療一般の領域でも比較的最近のものであり、有効性が厳密に確証されてない療法が多いという点では通常医療にも広く当てはまることである」と述べている。

 実際に、そのエビデンスは短期のものであったり、1症状のみの軽減であったり(治癒でない)、全体(総死亡率等)を見ず一部分だけだったり或いは数万という数がなければ有意差が出ないほど微少なものであったりするものが多い。

 EBMの実践者として名高い地域医療振興協会地域医療研修センター長の名郷直樹氏(当時昨手村国民保険診療所長)は代替医療とEBMについての質問に対して「西洋医学も、EBMの手順で評価すると代替医療と何が違うのかよくわからない。EBMにより西洋医学が代替医療と同じ土俵まで引きずりおろされた。EBMによってあらゆる医療行為が相対化される。代替医療も西洋医学もEBMの前では同じである。EBMの深みにはまればはまるほど、代替医療の深みに陥る患者を決して笑うことが出来ないと強く感じている今日この頃である」と述べている19)。

 

25、RCTで全て証明できるのか

 9のところでシャーマン氏が「実験をするときには普段の治療にさまざまな制限を加えることになり、その方法は臨床上では極めて不自然である」と述べているようにRCT或いは盲験法を行う際は普段の治療と違うことを行わざるを得ないので方法論的に無理があることも考えられる。

 また、前記の広井氏は「心身相関や慢性疾患の発生メカニズムの複雑性を考えた場合、著者らがいうような検証方法は限界を有するのではないか」とし、「この本を契機に議論すべきは『病気』とは、『科学』とは、『治療』とは何か、現代医療を巡る根本的な問いの掘り下げだろう」と述べている(なお、広井良典氏には今年度から本学会の副会長に就任していただくことになった)。

 そもそも、ランダム(無作為)化の意義は「研究者に都合の良い結果が出るように作為的に患者を各群に振り分けることがないようにすること」である。本書では「もしも患者をランダムに各群に割り振れば、年齢、収入、性別、病状の重さなど、あらゆる要因について、各群はほぼ同じ条件になると考えられる」と述べているが、これは完全な間違いである。ランダム化盲信ともいうべき言葉で「数が少なければ少ないほど、群間のバラツキは必至であり、結果に影響を与える要因が多ければ多いほど群間に何らかの要因でのバラツキは必至である」のは統計の常識である。よって、本書で言うように各群がほぼ同じ条件になるためには相当数の症例を集めなければならない。

 そもそも統計において、「差がない」ことは「同じ」であることでは全く無い。「差がない」ことは「統計的に有意に差があるとはいえないほどの差がある」ことであることを認識する必要がある。ベースラインで群間に差がないということは「試験群と対照群に振り分けられた対象者に統計的に有意に差があるとはいえないほどの差がある」ことであり当然何らかの差を持って実験に入るわけである。この差にプラスして、ちょっとの有効性の差で結果的に有意な差になる場合もあるし、逆にこの差のために有効性が高いのに有意な差にならないこともあり得るのである。

 私が学んだ工学の世界では、単純に無作為化することほど怖いものはないので決して行わず、むしろ作為的に群間に差が出ないように乱隗法やラテン方格法というような手法を使って実験計画を立てて振り分けていた。医療の世界では入院患者を対象とするような前向きの研究には応用できると思われるが、来院患者を対象とするような研究には応用は難しいかもしれない。

 いずれにしても統計には一定の限界があること、また14のところで述べたように「有効性」の判断は一様ではないこと、広井氏の言うように「病気」、「治す」ことはどういうことか、複雑系である「ヒト」に対する「科学」はいかにあるべきかなど最も根元的な問題は何も解決していないので、確かに良い契機であると思われ、さまざまな議論或いは研究が生まれることを期待したい。

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26、プラセボ効果を最大に引き出すこと

 図6に示すように通常の標準治療にもプラセボ効果が内在し、鍼治療には標準治療の効果以上のプラセボ効果があるということは

 1)プラセボ効果は同一ではなく、効果的に引き出せる治療とそうでない治療がある

  2)治療によっては真の効果があっても反対にプラセボ効果を減弱させるマイナス効果  も内在して可能性がある

 3)鍼治療のプラセボ効果は非常に高い

  4)鍼の治療システムは、身体全体の愁訴・健康状況を聞き、脉診や痛い部位に手を当  てる等の触診し、かつ全身或いは痛い部位に治療を行うなどプラセボ効果を引き出す  のに適している治療法と言えるのではないだろうか

 

 

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