<拡張期血圧が高い方が長生きする?>
日経メディカル誌ではついに、英国のEBM誌で掲載された論文の中からプライマリ・ケアの現場で参考になる論文を毎号紹介掲載することになった。EBM誌は世界の医学雑誌に発表された臨床研究の中から毎号重要なものを選択し、EBMの手法でコンパクトにまとめて掲載しているもので、いわゆる二次資料にもあたる。
さて、その第一段の紹介論文が『高齢者の降圧療法』と題したものであり、サブタイトルに「高齢者において、収縮期高血圧(収縮期血圧≧160㎜Hg、拡張期血圧<95㎜Hg)がもたらすリスクは何か。治療により得られる利益はどのくらいあるのか。」となっている1)。
ここで「高齢者の収縮期高血圧」という概念が登場する。この概念は1990年以降に他の高血圧とは病態生理学的に異なっていることが注目されて、幾つかの大規模臨床試験が発表されたということで、この論文ではそのメタアナリシスを行っている。詳細は本文を参照していただくとして、8つの臨床試験で、患者合計1万5千人以上、平均年齢範囲*1は62~76歳、フォローアップ期間*2中央値*3は3.8年、ベースライン時*4の喫煙率16%、ベースライン時に心血管系合併症を一つ以上有する参加者は31%だった。
そこで、全死因死亡率*5は収縮期血圧と正の相関があり(p<0.001)、拡張期圧血圧と負の相関があった(p=0.05)、ということであった。収縮期血圧と正の相関があるということは、収縮期血圧が高ければ高いほど全死因死亡率は高くなるということであり、p<0.001ということは、それが間違いである(偶然でも起こり得る)確率は、0.1%以下であるということを意味していて、ほぼ確定的な数字である。
また、拡張期血圧と負の相関があるということは、拡張期血圧が低いほど全死因死亡率が高いということを意味しており、「え!?ぎょ!ぎょ!」である。私の常識は医学の非常識であった。そして、ここでは明確に触れられてないが、脈圧の開大(収縮期血圧と拡張期血圧の差が大きい)が死亡リスクを増大させるという可能性が高いということのようである。
この報告では、収縮期血圧が10㎜Hg高くなるごとに、全死因死亡率(ハザード比*6:HR1.26)、心血管系死亡率*7(HR1.22)、心血管系合併症*8(HR1.15)、脳卒中(HR1.22)は増加したが、冠動脈イベント*9は増加しなかったとし、拡張期血圧が5㎜Hg上昇するごとに、全死因死亡率は低下したということであった。
今までは、収縮期血圧が高くとも拡張期血圧が低ければリスクが少ないと考えられていたのではないだろうか。本誌に記載した『愁訴からのアプローチ:高血圧』2)3)より、少しのその根拠(EBMでの根拠とは違う)を列挙してみる。
米国合同委員会の判定基準を見ると拡張期血圧の方を重んじて判定し、かつ、拡張期血圧が高いことを問題にしている(表20)。
また、表21の厚生省医療研究班悪性高血圧症小委員会による悪性高血圧症の診断基準(1974)では、血圧に関しては拡張期血圧が高いことだけを問題にしており、収縮期血圧については何も述べられていない。
次に高血圧の診断基準ではなく、診断から投薬までの手順について考察すると。
米国で1992年に提唱された重症度分類と投薬までの対応(表22)とWHOの軽症高血圧の治療指針(図17)、ともに収縮期血圧よりも拡張期血圧の方に重きを置き、かつ拡張期血圧が高い方を問題にしている。しかし、このEBMでの研究では拡張期血圧が高い方が全死因死亡率が低いという結果になったということである。
図17WHOの軽症高血圧の治療指針(WHO/ISH,1983,’86に部分改訂)
# 拡張期血圧90~105㎜Hgの患者を対象とする
# 目的は患者を正確に分類し、不必要な治療をなくすことである
# 治療目標は、拡張期血圧を90㎜Hg未満に下げることである
以上の表と図は(社)全日本鍼灸学会東京地方会学術部『愁訴からのアプローチ:高血圧』
医道の日本誌第54巻第10号より抜粋して引用
HOT研究*11(Hypertention Optimal Treatment Study:高血圧の最適治療の研究)というのがある。これは、世界26カ国が参加して行われた大規模無作為化臨床試験で、治療の第一目的はそれまでいわれたJカーブ*12を検証しようということであった。このJカーブは、血圧は、特に拡張期血圧は高い方が危険(病気の発生率及び死亡率が高まる)であるが、下げすぎても危険になるというもので、1987年に仮説が提唱されて以来多くの追試がなされ、賛否両論であったが、このHOT研究で明確に否定された4)。しかもこのHOT研究は、非常にエビデンスの質の高い研究と評価され、そこで明確に否定されたJカーブ、すなわち拡張期血圧は低すぎても危険である、ということがまた蒸し返されたのである。それどころか、このEBM誌の研究では、拡張期血圧は高い方がリスクが少なく、低い方が悪いといっているのであり、こちらも1万数千人を対象としたメタアナリシスであるからややこしくなる。ただ、EBM誌の研究は8つの臨床試験のメタアナリシスであり、それぞれの臨床試験では、患者層などの背景や追跡期間・時期等が違うのに対し、HOT研究は同一条件下で同時期に行われたということで、パブリケーションバイアスがないことなどからエビデンスの質は高いと言えるだろうが、共にかなりの研究なのに正反対の結果が出ていることは問題である。
問題となるキーワードは、高齢者であり収縮期性高血圧である。
<収縮期性高血圧とは>
―般的に血圧は加齢に連れて上昇し、特に収縮期血圧の上昇が著しく、拡張期血圧は50歳代で平坦化し、さらに高齢ではやや下降して脈圧が大きくなる。この高齢者に多い収縮期血圧のみが高い高血圧を(孤立性)収縮期高血圧(isolated systolic hypertension:ISH)という。ISHは―般に収縮期血圧が160mmHg以上で、拡張期血圧が90mmHg未満のものをいう。ちなみに、収縮期血圧と拡張期血圧の両方が高い場合を、収縮期拡張期高血圧ともいう。
この高齢者のISHは大動脈の伸展性・弾力性が低下することで拡張期血圧が低下して脈圧は大きくなる。よって、収縮期血圧が高くて拡張期血圧が低いということは、動脈の伸展性が低下していることを意味している5)。
また僧帽弁狭窄症、大動脈弁閉鎖不全では、拡張期圧が著しく低下するので、拡張期血圧が異常に低い場合(場合によっては限りなく0㎜Hgに近づく)には、これらの疾患の可能性を考慮する。
これらのことから、確かに病態生理学的には高齢者で収縮期の血圧が高い(≧160㎜Hg)場合には、拡張期血圧が高い方がむしろ予後は良いということもいえそうである。
そして、このEBM誌の報告では、降圧治療を行うことにより、収縮期血圧は平均10.4㎜Hg低下し、拡張期血圧も平均4.1㎜Hg低下した結果、全ての試験を合計して分析すると、全てのアウトカム(この場合は全死因死亡率、心血管系死亡率などの5つで)の改善が見られた、ということであった。すなわち、収縮期血圧も低下し、死亡率が下がったが、拡張期血圧も下がっているということで、単に拡張期血圧が低いことが問題というより、収縮期血圧が高いことと脈圧(この場合平均6.3㎜Hg縮まっている)が開大していることが問題と言えそうである。
また、この研究では、性別、年齢、収縮期血圧、脈圧、心血管系合併症の既往、及び喫煙状況による層別解析*10でも、全てのアウトカムが改善したと報告されている。
さて、それでは平均3.8年のフォローアップ期間においてどのくらいの改善率なのであろうか。NNTは全死因死亡率で59人、心血管系死亡率で79人であったということで、治療すると約4年の期間で治療しない人に比べ60人に一人くらい助けることができるということである。その3で述べたメバロチンよりは良い成績であるが、それほどありがたい数字でも無さそうである。むしろ対照群にプラセボでなく、運動療法や食事療法及び鍼灸治療で比較するとどうなるのか興味があるし、4年ではなく10年以上のスパンで比較して欲しいというのは贅沢な要求であろうか。
HOT研究の前にSHEP研究(Systolic Hypertension in the Elderly Program)というのがあった。この研究は、4736名の60歳以上の男女(平均年齢71.6歳、男性43.2%)で米国の16施設で治療されたSIHの患者を対象に1985年に開始され平均4.5年追跡された無作為化二重盲験試験で、目的は降圧剤による治療と脳卒中の種類別の頻度、脳卒中の時期、致死率、残存機能及び治療により到達した収縮期血圧と脳卒中の頻度との相関を検討することであった。その結果、収縮期血圧を低下させることによって、高齢者の全脳卒中が減少することが確かめられた、ということであった。そして、このSHEP研究のデータを題材にして、新たに解析した結果、拡張期血圧が5㎜Hg減少すると脳卒中、冠動脈疾患、心血管疾患、全てに渡って相対危険率が増加するという報告の訳と解説がインターネットで検索された6)。まさにJカーブの再燃である。この他にも、Jカーブについてはいろいろの論文の発表や大規模試験が行われており、ここでは割愛するが決着はついてないようである。
<何故、複数の質の高い大規模試験で結論が一致しないのか>
要するに、これだけの人数を対象として、これだけの質の高い研究を幾つもして結論が一致しないのは何故だろうか?ということである。引いては、EBMは本当に役に立つのか?という疑問さえ生じる。
結論が一致しない大きな理由として、実験の背景(人種・環境・目的・対象者など)が違うことがあげられるだろう(HOT研究では高齢者のISHを対象としたわけではない)。他に、過去の実験のデータを使った場合や、サブグループ(例えば、降圧治療を行う群とプラセボに分けた場合、心筋梗塞の既往の有無や喫煙の有無、性別などに分けて分析する場合のグループ)で分析を行う場合には、それぞれ(例えば、喫煙群と非喫煙群)が治療群とプラセボに均等にかつ偏りがなく(心筋梗塞の既往などが)割り付けられているかどうかは大きな疑問である。このシリーズのその3(本誌2000年6月号)で代替医療とEBMについて衝撃的なコメントをした名郷直樹氏は「高齢者収縮期高血圧の治療根拠」と題する論文の中で、高齢者ISHの患者に降圧治療を行うことについては、米国合同委員会第5次報告(JNH-5)、WHOのガイドラインにも治療の意義は確立したと書かれているが、その根拠となった論文を読むことが重要と述べ、その根拠となったSHEP研究について詳細に紹介している。その中でサブグループでの解析結果や当初の目的でなかったことについて後で別に解析することの危険性について述べている。そして、サブグループは、層別して無作為化してないので、偏っている可能性が高く、偶然でも有意差が生じる可能性は高いと述べ、筆者がシリーズその2(本誌2000年5月号)で述べた危惧そのものを指摘している7)。
そして、最も大きな理由ではないかと思われるのは、所詮そんなに劇的に効いてない、という事実である。名郷氏がシリーズその3で西洋医学がEBMによって、代替医療と同じ土俵におろされたと指摘したように、思ったより有効であるという結果(プラセボと比べて大きな差)が出てないので、ちょっと角度を変えて分析すると別の結果になってしまうことがある、ということではないだろうか。つくづく、「病気になってはいけない。病気になったら治してくれない。だから、病気にならないようにしなければならない。未病治こそ最も重要である。」と考える今日この頃である。
また、メディカル朝日誌の2000年12月号に「EBMをめぐる諸問題」という題の座談会が掲載され、大規模試験は平均的症例の結果に過ぎない等といういろいろな指摘があったが、その中でPTCA(経皮的血管内冠動脈形成術)とCABG(冠動脈バイパス術)のいずれかが優れているかを比較した、EAST試験という無作為化試験があるが、その中に、無作為化に同意してどちらかの手術を受けた患者(392人)と、無作為化に同意しないで、医師の判断でどちらかの手術をした患者(450人)との比較があり、医師の判断で手術をした群の方が3年間の追跡調査で有意に生存率が高いという報告があった。これは、無作為化の問題点でもあるし、無作為化試験をしなくてもこのような専門的臨床判断を科学的エビデンスとしてまとめること統計手法を開発することも重要ということで、EBMの手法についてもまだまだ問題点や検討すべき問題点があるということである8)。
多分、鍼灸治療においても同様にそれほど大きな差は出ないのではないかという気になってきている。先月号から以前シリーズで紹介したFACT誌の翻訳がやっと掲載されるとのことであるが、鍼灸分野において、名郷氏と同様な感想を鍼灸治療においても持たないようになることを期待したい。
‥‥EBM ってなあに 中間総括‥‥
<EBMがもたらすもの>
このEBM誌は、BMJ(British Medical Journal)のPublishing Groupが発行しているということであるが、このBMJの編集長である、リチャード・スミス氏のインタビュー記事が日経メディカル誌に掲載されている9)。
この記事は、「エビデンスは治療指針にあらず、一般医が専門家にもの申す手段にも」と題されていて、その1~その4(本誌2000年3月号~6月号)に書いたようなEBMに対する疑問に答えているが、その中でEBMでは2つのトレンドが重要であると述べている。
一つ目は、EBMによって医師患者関係がより密接になることとし、EBMがもたらす情報を使って、患者と医師の両方が話し合いながら一番相応しい治療法を選択するという状況が普及することと述べている。確かに、自分自身で収集したEBM関連の情報は、患者指導や患者の質問に答えることには非常に役立っているし、学校教育に際しても内容面の充実を図ることが出来る。しかし、残念なことに鍼灸治療に際しての情報があまりにもなさ過ぎるので、「アメリカやイギリスで鍼灸の効果を政府や医師会などの公の機関が認めはじめましたよ」というようなことしか今のところは言えないのが残念である。もちろん、「何々に良く効くツボや治療法」や、「降圧剤より副作用がなく確実に長生きする鍼灸治療」の類のエビデンスは、当分望めないでしょう。
二つ目は、その5(本誌2000年7月号)で述べたように、インターネットの急速な普及により患者の側に質の良いエビデンスを入手できる環境がどんどん整ってきているということであると述べている。要するに、医療供給側が必然的にインターネット情報、特にEBMによるエビデンス(患者も入手できるから)は手に入れて頭に入れておかなければ無ければならない、という恐ろしい時代がくるということである。今でも、「新聞やTVで‥‥といっていましたよ」というのはあるが、それは一般的な話題で、かつメディアが与える情報しか得られないのである(その患者がその時に欲しい情報であることが少ない)から、それほど問題ではないが、インターネットでは、患者が自分の欲しい情報を獲ることができるということが全然違う。ただ、鍼灸界ではまだまだ先のような気がするが、鍼灸師は西洋医学情報も知ってなければならないので医師ほどでないにしても、大変であることには変わらない。
現在の患者さん、特に高齢者の中で、コンピューターが密かに普及している。老後の楽しみというわけだが、大きいディスプレーにして文字を拡大すれば、本を読むより目が疲れないし、第一外出しなくても芝居のチケットの購入や年金などのバンキング(銀行取引)もできるし、仲間がいなくても麻雀ができるというわけである。当院が入っているビルに、コンピューターを教える学校があるのだが、60代以降・老年期の学生が沢山いる。北海道の義父・義母も70代の手習いで始めた。また、最近大学時代のクラブのOB・OGでML(メーリングリスト:ここにメールを送るとML参加者全員にメールが送られるというグループ)が始まり、沢山の健康に関する質問が小川大先生宛(いつのまにか、小川さん・君・氏・先輩→小川先生→小川大先生→小川大先生机下と変わっていった)に送られてくる。このMLに飛び交うメールは1日10件以上で、多いときには30件以上にもなる。この中にはかなり健康に関する質問も含まれるのである。これは、鍼灸・鍼灸院の宣伝にももちろんなるし、患者獲得の手段にもなること請け合いであると思っている。もちろん、ML参加者(もちろん全員を知っているわけではない、せいぜい自分の前後2・3代だけである)だけでなく、当然その友人・家族も相談の対象となるからであるし、輪が繋がるからである。ただし、このメールの処理に一日多くの時間を割かなければならないのがちょっと問題ではあるが。
このMLは(社)全日本鍼灸学会関東甲信越支部でも使っており、幹事間の意見交換、資料(決算、事業報告、会議録、ポスター、機関誌の内容等々)の伝達と訂正、改編なども行われ、事実上対面による会議の必要性がないくらいでもある。
メディカル朝日誌に「インターネットが医療を変える」というシリーズが2000年6月号から始まっているが、その第9回(2001年2月号)では、ネット上での患者の口コミ情報により、痛くない糖尿病の指先外採血法が紹介され、そのことによって多くの医療機器メーカーが参入して、瞬く間にそれが普及した事実を紹介している10)。これは、患者がインターネットを通じて医療を変革していく、ということを示している。
実は、今回収縮期高血圧の資料収集については、東京衛生学園臨床教育専攻科(教員養成施設)の藤田陽子さんにお願いしたところ、藤田さんがインターネットと医中誌のCD-ROMから集めてくれたものを使っている。この臨床教育専攻科では、授業でも、研究においても、資料収集に図書館(全国の大学図書館とリンクしているので論文などが衛生学園の図書館になくとも2・3日で手に入る)はもちろんのこと、インターネットとCD-ROMを大いに利用しているのである。確かにインターネット上には医師や専門医でなければ、閲覧できないサイトも沢山あるが、医師以外でも相当の情報が得られることは確かである(しかも自宅で)。
<EBMの勉強を通じて思うこと>
今回の資料で思うことは、愁訴からのアプローチで医療最前線にいる現場の医師とともに高血圧の検討をし、当時最も最新と思われた文献などでまとめたものが、5年経つと如何に色あせてきたかが身にしみると同時に、当時我々が手に入れた最新情報は、その時もう既に古くなっていたのだという事実も思い知らされた。
IT革命という言葉は、その言葉を使っている人間がその本質を最も知らないのではないかという指摘がある程(例えばM総理)で、その本質、すなわち未来の展望を理解・把握することが非常に難しいということでもある。IT革命はEBMをもたらしたし、これは当然もっと大きな医療革命に繋がるでありましょう。それがどういう結末を迎えるのかはまだほんの想像しかない。シリーズのその5で述べたように、情報の非対称性を根本から変えて行き、今までより遙かに速いスピードで医学情報のup-to-Date(いわゆる生涯教育:しかもリアルタイムの生涯教育)をしていかなければ医療人として、そして教育者として成り立たない時代が確実にやってくる。それに対して、個人で対応して行くことは不可能である。最新刊で仕入れた情報で教えたら、インターネットで仕入れた情報を学生が持って、「先生、それは間違ってます。」では困ります。それは学会で対応して行くしかないだろうし、学術大会というより地方会レベルでチームを組んで対応するしかないでしょう。
しかし、そうは言っても鍼灸関係のエビデンスがあまりにも少ない、というのが実感です。だから鍼灸治療の面ではまだ、そんなに焦らないでも良いのかも知れません。しかし、EBMを実践するならば、まずエビデンスがなければ話しにならない。このエビデンス作りはもちろんのこと、エビデンスの探索も学会の仕事かもしれない。1年間のEBMの勉強を通じて、今後益々(社)全日本鍼灸学会の使命が重くなったと感じる次第であります。後は本誌で連載されるFACT誌情報をはじめとする諸論文を読んで臨床に役ただせて欲しいことと、そのFACT誌等を読むに当たって、本シリーズでの解説が少しでも役に立ったのではないかというという自負を持って、しばらく本シリーズはお休みします。非常に面白くて是非読者に知らしめたいという情報が貯まりましたら、またご紹介します。
しかし、1年前と比べると少しはEBMが分かってきたと思いますが、ずいぶん危ない内容があったと反省してます。専門家でないものが書けば、当然のことかも知れません。しかし、その反面専門家の紹介記事だと当然知っているものとして、素人には分からない言葉が沢山列び、何がなんだか分からないという可能性がありますが、専門家でない者が書いた分読者には分かりやすかったのではないかということでお許しを願いたいと思います。
<今日のキーワード>
*1 平均年齢範囲:8つの論文の中で、各論文での平均年齢が一番若いのが62歳で、一番高齢だったのが76歳ということで全部の対象患者の平均年齢ではない。すなわち、論文によって対象患者の年齢層がかなり違うことが想像できる。
*2 フォローアップ期間:臨床実験を継続している観察している期間のことで、8つの論文での中央値は3.8年ということで、それぞれのフォローアップ期間はマチマチであることが分かる。
*3 中央値:平均を表す数字は3つあり、普通に使われている平均は算術平均(mean)のことで、全部足してその数で割るという数字である。それに対して、中央値(median)は最大値と最小値の真ん中の数字のことをいう。個々の論文での対象人数が違うので算術平均でなく中央値を使ったのだと推測する。もう一つの平均は、ファッションでよく使われる言葉mode(最頻値)で、最も数が多い値のことを指す。算術平均がいわゆる重心であり、数学的には最も妥当な平均値であるが、状況によっては中央値や最頻値を使った方が目的にかなうことがしばしばある。
*4 ベースライン時:実験を開始する直前のこと
*5 ハザード比(HR:Hazard Ratio):例えば治療群の死亡率を分子に、対照群 の死亡率を分母にして、治療群の対照群に対するリスクの割合を相対リスク (Relative risk)というが、ハザード比はこれとほぼ同じ概念でリスクが時 間によって変化する場合に使われる。すなわち、5年後におけるA治療の死 亡率は100人中10人で、プラセボの死亡率は100人中20人だとする と、A治療のプラセボに対するハザード比は(10/100)÷(20/100)で0. 5になるが、10年度ではそれぞれ死亡者15人と30人だとすると、その ハザード比は(15/90)÷(30/80)=0.44となる。5年後だけの試験では、 相対リスクと呼ばれその分母はベースライン時の人数になるが、ハザード比 では、時系列ごとに分母が変わる。
なお、相対リスクもハザード比も前向き研究に使われ、オッズ比は後ろ向 き研究に使われる。
*6 全死因死亡率:あらゆる死因による死亡率のこと
*7 心血管系死亡率:心血管合併症による死亡率
*8 心血管系合併症:冠動脈疾患(心筋梗塞と突然死)、脳卒中、及び血管障 害
*9 冠動脈イベント:狭心症、心筋梗塞など
*10 層別解析:例えば、喫煙者と非喫煙者に分けて、喫煙者においても、非喫 煙者においても同様の結果が出るかどうか検討すること。
*11 HOT研究(Hypertention Optimal Treatment Study:高血圧の最適治療 の研究):1994年より世界26カ国が参加して(日本は不参加)、患者総数 19193人を対象とした大規模無作為割付臨床試験で、97年8月まで約4年間追 跡調査した研究で第17回国際高血圧学会で報告された。研究目的はJカーブの検証と降圧治療の最適血圧範囲を求 めることであった。研究方法としては、降圧目標を≦90㎜Hg、≦85㎜Hg、≦80㎜Hgの三群に分け最適降圧目標を探った結果、80~85㎜Hgの配意が最適という結果を得たというものである。また、この研究には幾つかのサブグループ研究があり、その中で少量のアスピリン併用は心筋梗塞の減少に繋がるという成果も得ている。
*12 Jカーブ:1987年cruickshankによりLancet誌に報告された仮説で、降圧療 法により、拡張期血圧85~90㎜Hgの範囲で心筋梗塞死亡数は最低となり、そ れより高くなるほど、またそれより低くなるほど共に死亡数は増加するとい うもの。
<引用文献>
1)翻訳監修 葛西龍樹 「高齢者の降圧療法」 日経メディカル398号 p110~111 2001年1月
2)(社)全日本鍼灸学会東京地方会学術部『愁訴からのアプローチ:高血圧1』
医道の日本誌第54巻10号 p56~68 1995年10月
3)(社)全日本鍼灸学会東京地方会学術部『愁訴からのアプローチ:高血圧2』
医道の日本誌第54巻11号 p50~59 1995年11月
4)林 義人「第17回国際高血圧学会+HOT Study報告:Jカーブは現れない!」
メディカル朝日第27巻第7号p10~15
5)編集代表 折茂 肇 「新老年医学 第二版」 東京大学出版社 p,585-587 1999
6)倉沢 訳 「収縮期高血圧の治療では拡張期血圧の下がりすぎにも要注意」 原著 The role of diastolic blood pressure when treating isolated
systolic hypertension. Grant W. Arch Intern Med. 1999;159:2004-2009
「孤立性収縮期高血圧を治療する際の拡張期血圧の役割」
http://www1.doc-net.or.jp/~u98071700w/r_jshape.htm
7)名郷直樹 「高齢者収縮期高血圧の治療根拠」 JIM(0917-138X)6巻3号 P268-271 1996年3月
8)桑島巌他「EBMをめぐる諸問題」メディカル朝日 第29巻第12号 p8-13
2000年12月
9)リチャード・スミス「エビデンスは治療指針にあらず」 日経メディカル398号 p112 2001年1月
10)鈴木吉彦 「インターネットが医療を変える」第9回 メディカル朝日第30巻第2号 p35-37 2001年2月
<インターネットで取った参考資料があるURL>
http://medwave.biztech.co.jp/nm/9907/topics.html
http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/HTgaidline9907NikkeiM.html
http://www1.doc-net.or.jp/~u98071700w/r_bpjiko.htm
http://www1.doc-net.or.jp/~u98071700w/r_drug.htm#超高齢者の降圧剤
http://www1.doc-net.or.jp/~u98071700w/r_bp.htm#脈圧
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