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鍼灸師における「インフォームド・コンセント」に関しての私見

 インフォームド・コンセントにおける「患者が自分に対して行われようとする医療行為について十分理解する権利を保障しなければならない」という主旨は、憲法にも謳われているものであり当然のことと理解できる。
 だが、専門知識を持たない患者が医療行為を十分理解することは困難であり、そのため不十分な理解のまま「先生にお任せします」という消極的な同意が行われていることも多いだろう。
 また、インフォームド・コンセントには「患者が治療法を選ぶ権利」もある。これにはインフォームド・コンセントではなくインフォームド・デシジョンと呼ぶべきとの意見もあり、例えば前立腺癌の手術の場合、「A法は癌を全摘でき再発はほぼ0%だが、EDになる確率が80%。B法は再発率約50%だが、EDになる確率はほぼない。C法はその中間。どの方法にしますか?」という場面が想定できる。この時、医師が提示する選択肢の種類とベネフィットとリスクの情報次第で、患者の選択は如何様にも変わってしまうだろう。
 このようにして得られた同意であっても、医療行為を十分理解し決定したと見なされ、結果についての責任の一端を患者も担うことになる。現行のインフォームド・コンセントが患者のためと言えるか、甚だ疑問である。
 さて変わって、鍼灸治療の場合はどうだろう。病態に対する東洋医学の概念を専門用語で説明しても、患者には理解できないだろう。であれば、病態説明は西洋医学で行い、治療説明は「東洋医学の診断法に則った治療」とだけで良いかもしれない。
 問題は、鍼灸で患者に選択肢を与えることができるかどうかである。というのも、多くの鍼灸師はある治療方針・哲学・信念等に則って治療を行うことがほとんどで、これらに反した治療法はしないと思われる。言うなれば鍼灸は術者の信念を患者に押し付ける医療でもあるからだ。敢えて選択肢を設けるならば、「効果は高いが少し痛い治療と、痛くはないが治るのに時間を要する治療のどちらが良いか?」等の提示は、考えられるかもしれない。

(2019年記)

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