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会頭講演5:本質的治療とは

<自然治癒力>

 生体には、普段の生活上を維持していく様々な機能があり、それがうまく機能していると何らかの症状・異常が起きないようになってます。例えば血圧もその時の活動に合わせて変動はしますが、運動しているときに必要に合わせて高く、安静時には低くなるようにコントロールされています。このように通常な状態を維持する機能を恒常性維持機能(ホメオスターシス)と呼びます。また、体に害がある細菌やウイルスが生体に侵入してきたときはそれらを排除したり殺したりする機能や免疫力を高める機能がありますし、体が傷ついた時にはそれを修復する機能(実は炎症がそうです)など様々それらの症状・異常を治す機能があります。これらを総称して「自然治癒力」といいます。

 

<東洋医学は自然治癒力に頼り切り?>

 東洋医学を批判する人たちには、「東洋医学は何もしないで自然治癒に頼り切っている」ということをいう人がいます。しかし、今までの多くの東洋医学の科学的研究では「自然治癒力に頼っているのではなく、自然治癒力を鼓舞している」というのが正しいようです。

 例えば、風邪をひいたときには発熱しますが、発熱はウイルスや細菌の種類や程度により自ら免疫力を高めるために応分の発熱をするのです。ですから相手が強いと判断すると高熱になり、そうでなければ微熱で済ませます。生体は発熱により免疫力を高め、ウイルスや細菌は高熱になると活動力・繁殖力がかなり弱くなるので生体が勝てるようになります。鍼灸治療や漢方の風邪薬は皆、免疫力を高めるために体温を上げるようになります。

 このように東洋医学は自然治癒力に頼っているのではなく、自然治癒力を鼓舞しているのです。発熱を悪いことと認識すれば東洋医学の治療を受けるとより発熱するので一見悪くなったように思われます。これを「瞑眩」といいますが、治療前によく説明しておかないと治療で悪くなったといわれかねません。

 

<西洋医学は自然治癒力に頼らないのか?>

 西洋医学は化学物質の力や手術などで自然治癒力に一切頼らず治しているイメージがあります。本当にそうなんでしょうか?1997年東京ビッグサイトで行われた(社)全日本鍼灸学会東京大会(私が事務局長とプログラム委員長を務めた)で私が司会をした「身体を見つめる伝統と科学」と題したシンポジウムで長崎国際大学の石田秀美教授が「西洋医学こそ自然治癒力に頼り切っている」を述べられ、私は全身に鳥肌が立ったことを覚えています。なんとなくそんな感じがしていたのですが、医師は全くそんなことを一言も述べないのでうやむやになっていたのがこの一言ですべて氷解した次第です。

 例えば、風邪薬が典型的ですが、体自ら発熱しているのを消炎鎮痛解熱剤で解熱させて自然免疫力を下げますが、発熱・炎症に伴う体のだるさ・痛みなどが取れて一見楽になり治ったようになります。しかし、風邪を引き起こしたウイルスはそのまま(ウイルスを殺す薬はありません)ですし、ウイルスに対抗するのは生体の自然治癒力(抗体産生力)です。まさに自然治癒力に頼り切ってますし、東洋医学と違って自然治癒力を鼓舞するのではなくむしろ下げています。つづく

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