EBMってなあに-その9

前号では、東洋医学的検査法のEBM的手法の適応の可否などに脉診の実験にを題材に考えてみた。今号では、経絡や経筋の存在を確かめ、治療に応用するという観点においてもRCTが可能であるということから考えてみたい。

<経絡(経筋)が証明されたか>
去る、十月二十九日三十日の両日、東京都江戸川区総合区民センターで日本伝統鍼灸学会が開催された。そこの一般発表で『運動器系愁訴に経筋を考慮し、栄穴または兪穴に行った皮内刺鍼の臨床効果』と題して、明治鍼灸大学東洋医学基礎教室の篠原昭二助教授が非常に画期的な報告をした。
 内容は、大学付属鍼灸センター来院患者のうち四肢や体幹部に運動器系愁訴を訴える患者で、本研究の主旨について口頭で同意を得た患者四十五名を対象とし、クロスオーバーデザイン法*1を採用し、①本経治療群(疼痛部位を通る経筋上の末梢の栄穴または兪穴に皮内鍼を刺入した三十例)、②シャム群*2(皮内鍼を刺入直前に見えないように放棄してあたかも刺入したごとくに見せた後、絆創膏固定した二十例)、③他経治療群(隣接した正常な他経の経筋上の栄穴または兪穴へ皮内鍼を刺入した二十例)の三グループに分けて行ったものである。そして、治療前後のVAS値*3の変動幅(治療前の値-治療後の値)を算出し、三群間で比較した。その結果、本経治療群では平均して40㎜の減少を示し、シャム群では15㎜、他経治療群では12㎜の変化であった。tukey法*4を用いて群間検定*5を行ったところ、本経治療群は他経治療およびシャム群と比して1%の危険率で有意差があることが判った、と報告されている1)。
 この研究では、A:本経治療群とシャム群の比較によって鍼治療とシャム鍼(プラセボ:疑似・偽鍼)の治療効果を比較することになり、鍼治療の有効性を検出することが出来る。また、B:本経治療群と他経治療群との比較により、経絡(経筋)治療の有効性、引いては経絡もしくは経筋の存在の証明に繋がることになる。この研究では、AB共に統計的に有意な結果が出たということで(図15)、経絡または経筋を応用して遠隔部位へ極く軽微な刺鍼により自発痛を軽減することが出来たと結論されている。
 日本伝統鍼灸学会の会場では、発表後これが経筋であるかどうかに質問が集中したが、EBMの立場でいえば経筋であろうと、経脉(経絡)であろうとどちらでも良いことであり(理論的背景は問わない)、EBMとしてのエビデンスの質はかなり高いということが出来、臨床に応用したくなる研究といえる。欲を言えば例数が少ないことであるが、今後例数を増やして研究を継続するということで価値は高まると考えられる。また、榮穴だけでなく、他の五行要穴との比較もされれば、五行穴の性質の違いなども解明されるようになると考えられるので今後に期待したいし、誰でも追試が可能なので応用してみると面白い。私も早速2・3の患者に応用してみて非常に良い感触を得ている。
 さて、EBMでは理論的背景を問わないということで、この痛みの軽減の根拠が経筋であるか、経脉であるか、はたまた神経・血管等(ただし、その可能性は低そうであるが)であるかどうかは問題でないといったが、それは臨床で応用する場合に問題ではないということであって、より有効性の高いエビデンスを得るための研究を進めるという立場では理論的背景をきちんとすることはやはり重要な問題となってくる。すなわち「つくる立場」では問題であるけれど、「使う立場」では問題ではないということである。この点を誤解無きようお願いしたい。
 この被検者総数は四五名であるが、各群の被検者を合わすと七十名となる。これはクロスオーバー研究デザインを使ったためで、被検者がある群の治療のみを受けたのではなく、他の群の治療も受けたことを示している。また、研究の主旨を説明し口頭で同意を得た被検者ということで、通常健康への意識が高い人とそうでない人にはセルフセレクションバイアス(その4参照)あると考えられるが、それは、検診を受けた人とそうでない人に治り方や養生・コンプライアンス(その6参照)に差があるということであり、この研究の場合にはまずそのバイアスは考えにくい。
 この研究の素晴らしいところは、軽微な刺激で瞬時に反応が出て、その反応を術者の主観(例えば脉診)でなく患者の主観(VAS)で検出したことである。よく言えば客観的な指標も欲しいところであるが、たとえ主観であっても患者の主観(臨床の最大の目標の一つは患者の主観的な苦痛を取ること)であったということで、通常はこのように良く出てこないものである。
 余談になるが、今年度の日本伝統鍼灸学会学術大会ではスライドは全てコンピューターを使って行った。発表者はパワーポイント(マイクロソフトオフィス2000に在中のソフト)でスライド原稿を作り、フロッピーディスクないしメールで実行委員会に送った。図形やグラフはもちろんのこと、背景の絵を工夫したり時間差で文字や絵を映し出したり、様々なことが出来る。その一週間後に(社)全日本鍼灸学会の丹澤章八会長が日本臨床懇話会で見事にこのスライドを使って(以前より御自分でプロジェクターとコンピューターを持ち込んで使用していた)特別講演を行い、それを見た友人の受講者から早速問い合わせがあったくらいである。実はかく言う私も、装置の存在は良く知っていたものの、自分で使ったことはなく、早速パワーポイントを手に入れて、そして篠原研究のスライドを拝借して見てこの原稿を書いているのである。多分2・3年以内に、鍼灸関係の全ての学会でこの方式が採られることと思う。私の古いスライドもバージョンアップして作り替えねばと思っている今日この頃である。IT革命はかっこいいが面倒くさい面も確かにある。しかし、スライド原稿を受講者が簡単に手に入れることが可能にもなるのである。もちろん版権の問題など解決しなければならない問題もあるが、こういう点は素晴らしいことである。

<椎間板ヘルニアの手術療法と保存療法の比較>
 最新のEBM誌に「EBMの視点からみた腰痛に対する治療」2)と題する報告が掲載されていた。これは福島県立医科大学医学部整形外科の佐藤勝助氏らが報告したもので、腰痛の頻度、受療率、代替医療への受療率等のことと、西洋医学において腰痛に対する診断や治療概念及び手術法などが統一されて無く、医師の裁量に全て任されている実態などが報告されている。その中で椎間板ヘルニアに対する治療法の選択-保存療法と手術療法-についてのRCT論文を紹介している。
 これは、Weber H:Lumber disc herniation.A cntrolled,prospective study with ten years of ovesarvation.spine 1983;8:131-140という文献から引用したもので、今までは腰仙椎部椎間板ヘルニアで①耐えられない疼痛、②急性または進行性の下肢筋力低下、③直腸膀胱障害の三要件のいずれかを有しない対象に対し、保存療法で行くべきか、手術を行うべきか明確な答えがなかった(何れかを有する場合には手術対象とされている)が、これらの三要件を有しない126例に対し、保存療法と手術療法のRCTが施行された論文である。治療成績は患者の満足度を基準とし、Good(充分満足)、Fair(多少の不満があるが満足)、Poor(満足してなく、部分的ではあるが耐えられない)、Bad (腰痛または坐骨神経痛のために仕事に全く耐えられない)、という4段階評価とした。ここでの保存療法とは、安静、運動療法、鎮痛剤の投与、及び腰椎ベルトの装着で鍼灸治療は含まれない。
 この結果、1年後の追跡調査時点では、Good及びFairの占める比率は、保存療法61%対手術療法90%だったのが、4年後には86%対89%になり、10年後には93%対92%となって、短期的には手術療法の方が良い結果になるが、長期的には変わらないということであった。そして、短期間で早く治したい患者には手術療法を、長期に渡ってじっくり治したい患者には保存療法を、というように患者に選択させる(インフォームドコンセント)ようにするべきであると結論している。
 この論文に対して、佐藤氏らはRCTの追跡調査が10年と期間が長いこと、患者の満足度により治療成績を評価していることからも、エビデンスの質が高いと評価している。今までは、患者の満足度という主観的な評価では客観性が低いということで、医学的価値が低いという評価がされがちであったと思うが、EBMの立場では、むしろ患者の主観的な評価の方を高くしている傾向がある。臨床の場への医学の適応という側面からは当然だと思うが、学問・真理探究の立場から、そしてデカルト科学の立場からは無かった発想である。何か東洋医学的な発想と似通ってきている気がする。
 以前、ある医学会で鍼灸の臨床治験の発表をした際に、西洋医学はcure(治癒)をするが、鍼灸はcureはせずcare(手当て)をしているだけではないかという質問があった。それに対し具体的にcureとcareはどう違うのかという質問をしたところ、例えば腰痛に対し、鍼灸では患者の訴えだけを指標として治療しているが、整形外科では、X-pで確認して治療を行っているところが違うと答えられた。では、患者さんがもう痛みが無くなりましたとおっしゃられたら、もう一度X-pで確認するのですか、と質問したら、そんなことはしないとおっしゃられたので、ではcureの意味は何ですか、と質問したら黙ってしまわれました。
 この議論では、X-pで、例えばL4-5間に狭窄があり、椎間板ヘルニアないしその既往が疑われ、それが原因で腰痛を起こしているのではないかということで治療して患者が治っても、L4-5間の狭窄は変わらないということが根底にあるが、もしMRでヘルニアが確認された場合に、治療して訴えが無くなると同時にヘルニアも消失しているという状況ならばこの医師の言い分は一見通る。しかし、それでも鍼灸治療でMRの確認もできるのであるから、西洋医学はcureで鍼灸はcareという言い分はよく分からない。長崎国際大学の石田秀実氏がいうように西洋医学といえども自然治癒力に期待している面は大きいのであるから、cureとcareの問題は簡単には定義できない。
 では、細菌性の疾患で抗生物質により最近の消失が証明されたらそれはcureでないかという問題提起があると思う。その通りだと思うが、鍼灸治療を行って同様に細菌の消失が確認されたらそれもcureでしょう。しかし、どちらも自然治癒力で治ったのかも知れないと考えるとcareかも知れない。何か哲学めいてきたけれども、そもそも人間及び病気・症状の原因は共に複雑で単一原因に求められないことが多いわけであるから、厳密にはcareもcureも変わらないのかも知れない。

⑤ intention-to-treat分析(治療の意図による分析)
 さて、この論文では10年追跡すると保存療法も手術療法も変わらないという結果になったということであるが、20年ではどうかとか30年ではどうかという疑問も出てくる。通常手術にはリスクが伴い、後遺症ないし筋力低下がある可能性も高いと考えられていると思うが、それが明確な事実ならば当然保存療法の方が良い結果になるようにも思う。
 また、この論文では、4年後の時点では両方にほぼ同等に下肢痛ないし腰痛が9-12%認められたが、10年後にはどちらも腰痛ないし下肢痛は存在してなかったと報告されている。
 ここで、様々な疑問が沸いてくる。まず、追跡調査ということであるから、ずうっと保存療法を行っていた訳でないことが分かるが、何れの療法においても再発はなかったのであろうかどうか。通常一度腰痛を起こすとそれは次の腰痛の始まりといわれ、腰痛の既往を重ねる人が多いし、それは手術例でも例外でないからである。そして、その時は何らかの治療を施してないのであろうか。また、手術の後に保存療法はしなかったのか、または保存療法では駄目で、手術に移行した例はないのか。その他、ここでは先の三要件の何れかが満たされた患者で手術を拒否して保存療法を希望した患者の有無について言及してないが、我々日本の鍼灸臨床の現場ではこのような患者は非常に多く経験する。すなわち、手術療法が適切と医師が判断しても、患者が拒否して保存療法をした患者がいるのかどうか、その患者の処理はこの研究ではどうしたのか、そして、ここで保存療法を行った患者の中に含まれてないのかどうか等が気にかかる。
 原典の論文を読んでないので分からないが、多分そういう例もあったのだろうが、そういう例は、データから外したのかも知れない。そうだとすると、この二つの療法を比較する際に、若干問題が出てくる。
 この問題を解決する方法が、intention-to-treat分析(治療の意図による分析)
である。
 例えば鍼通電(試験群とする)と置鍼の治療(対照群とする)の比較をする実験をしたとする。通常は通電群と置鍼群にランダムに割り当てた患者は、実験期間中その治療を継続する(図16のAとC)と考えて分析するが、実際には通電治療を好まない患者や刺激過多で悪化する患者も出てくる可能性がある。その場合には治療者が、最初の割り当てに関わらず患者を置鍼群に変更する場合も出てこよう(図16のB)。また、逆に置鍼では効果があまり上がらないと判断して置鍼から通電に変更する場合も有るだろうし(図16のD)、置鍼でも刺激過多なので単刺や接触鍼に変える場合も考えられる(図16のE)。鍼通電治療と置鍼治療の効果の差を見たい場合には、当然AとCで比較すべきであろうが、実際問題としてAとCだけで比較して通電群の方が治療成績がよいという結果が出ても、実は刺激過多のために途中で置鍼に変更したB群がかなりいるという状況では、果たして通電治療の方が有効であるということがいえるのかは疑問である。AとCだけで比較して良い場合は、BやD・Eを極力最小限に押さえられた場合のみ(AとCに比較して問題にならないほどの少数に)にいえるのであって、実際の臨床現場では新薬の副作用という問題を考えてみればわかるように、むしろそういう場合の方が少ないということに気付くと思う。臨床の現場では当然のことながら研究よりも患者の方が大事であるということである。(ここでは脱落例が無いという前提で図を作成したが、実際には脱落例も考慮する必要がある。)
このintention-to-treat分析では、試験群が対照群に比較して有効性が高いということだけを分析するのではなく、変更すること自体がその治療法のマイナスの部分であると判断し、そのマイナスの部分も引っくるめて分析しようとする研究方法である。すなわち、途中でどの様に変更しようとも最初の割付に従って比較検討して分析するということで、ここでは最初の通電群と置鍼群に分けたのであるのならば、通電が置鍼に変わろうと置鍼が通電に変わろうと関係なく最初の割付で比較検討するということで、(A+B)と(C+D+E)で比較検討するということである。そうするともはや通電と置鍼の治療法の差異を検討するということでなくなるが、治療法というより治療方針の差異を検討するということで「実践的な治療効果」を検討するということになる。すなわち、通電が合う患者さんには通電がいくら有効であっても、合わない患者さんには無効か害があって他の治療法に変わらざるをえない場合が排除された形でのRCTの結果は、実際の臨床での役立ち度(有用性)を測る目安にはならないということである。
 実は、鍼灸師として実際に知りたいのは、この「実践的な治療効果」であって治療の実用性の面からもintention-to-treat分析の方が良いということがいえる。
 確かにこの分析法は治療法の優劣を決めるという単純な図式から外れるので、わかりにくいけれども、有効性だけでなく有害性も含めて検討するということを考えれば納得できる。ただし、あくまでも治療の意図による分析ということで治療の変更に際しては、極力治療者の主観的な意図が介入しないように変更する場合の基準を明確にしておく必要がある。

<今日のキーワード>
*1 クロスオーバーデザイン(交差研究デザイン:Crossover Study Design)  二つ以上の実験的治療法を指定された、あるいはランダムな順序で同じ患者  群に交互に施す研究デザインのこと。ただし、このデザインでは、前に行っ  た治療の影響が出ないようにするためにある一定の期間治療を全く行わない  洗い出し(Wash out)期間が必要になる。篠原研究では、一週間以上の洗い  出し期間をおいた。
*2 シャム群(Sham群):shamとは見せかけのとかインチキなという意味で、  端的に言えばニセ鍼(sham鍼)を施した患者群のことを意味する。
*3 VAS値(Visial Analog Scale value) :通常は10㎝の長さの長方形  の紙を用意し、最も痛いところを右端とし、全く痛みがない状態を左端とし  て、現在の痛みがどのくらいのところにあると思うかを患者にプロットさせ  る方法で、患者の主観的な苦痛度をはかる物差しとする。主観的な痛みを客  観的な数字に変換する方法。当院では、15㎝の紙を用意し、左端から10  ㎝のところに線を引き、初診治療前の痛みをこの線のところとして(左端は  全く無痛状態とする)、現在の痛みがどの辺りかを問う方法を採っている。
   これは、前回との比較を見たいからであって、悪化した場合をはっきり知  りたいからである。本来ならば、10㎝長の紙で最大の苦痛は、想像できる  最大の苦痛という定義すれば、初診時や発症時の最大の痛みそのものも、1  0㎝にならないはずであり、そうすれば理屈では初回時よりも悪化したかど  うかは分かるはずだが、実際にはそうならないことが多い。VASでは初回  時より悪くなっているのに、訴えでは良くなっているケースが多いからであ  る。ただ、初回時の痛みを10としても段々忘れるので、長期には使えない。
*4 Tukey法(チューキーの方法):各群間の分散(データの散らばりの  程度)等を計算して各群の影響などの分析を行う統計手法である分散分析に  おいて、各群の平均の差を検定する方法の一つ。
*5 群間検定:各群の平均値などの差を検定して、例えば本経治療群と他経治  療群との間に差があるかどうかをみること。
*6 intention-to-treat分析(治療の意図による分析):被検者が実際に割り  付けられた治療を完結したかどうかに関わらず、当初割り付けた群に従って  分析すること。場合によっては最初から拒否され他の治療に変更した場合も  含まれる。その他、ここでは考慮してないが、通常では脱落例(治療を止め  てしまう)があり脱落例も考慮する必要がある。脱落例がある場合には、そ  の脱落例は、効果判定の際に「治る」か「治らない」という場合には「治ら  ない」であるし、数字で効果を判定する場合も変化はないものとして扱うの  が通例であるから、治療効果そのものは脱落例を考慮しない場合よりも少な  くなるのは必然である。そうすると、脱落例を考慮しないで純粋に治療効果  だけで比較すると対照群に比べて効果があるのに、脱落例を考慮すると統計  的には効果がないような結果になってしまう恐れは充分ある(これは脱落例  だけでなく、ここでの例でも考えられるが)。これは問題であると考えるの  は自然である。しかし、脱落するのはそれなりの理由(ネガティブな)があ  ると考えれば、脱落例も引っくるめて考えるべきであるということにもなる  し、医療経済的な面を考えれば全てを引っくるめて、国民の健康及び経済の  ためにはこちらの方がよりよい分析法だといえる。
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<引用・参考文献>
1)篠原昭二 他 「運動器系愁訴に経筋を考慮し、栄穴または兪穴に行った皮 内刺鍼の臨床効果」 日本伝統鍼灸学会誌27巻2号 p48
2)佐藤勝助 他 「EBMの視点からみた腰痛に対する治療」
 EBM誌第1巻6号 2000/11 p35-39

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